日本迷宮化計画〜日本をダンジョンにしてしまえ!〜

スレ番9の『まず神域を作ります』

 俺はスレから落ち、PCの電源をオフにした。

 そして台所に向かい、冷蔵庫からパックから煮出した自家製麦茶を取り出し、コップに移すと喉を潤す。

 中年になると、意識して水分取らないと脱水症状になることがあるからな。

 水分、大事。ゼッタイ。


 それにしても結構スレに人も集まってくれて、本当に良かった。

 スレ建てして正解だったなぁ……あんなに有意義な意見が聞けるなんて。

 

 質問受け付けるとは言ったけど、スレ建て中にあんなにめーちゃんに質問行く羽目になるとは思わなかったし……俺、タジタジだったよ。

 やっぱり賢人けんじんっているんだな。特にスレ番42なんかの提案は俺も考えつかなくてビックリしたし。


 ただ質問しに行くたび、めーちゃんの神域化の儀式が凄い事になっていったのには驚いたけど。


 1度目聞きに行った時は、まだ良かったんだよ。

押し入れの前で祈ってただけだったからさ。

 2回目もまだ良かった、押し入れの上段の床の四隅と天井の四隅計8箇所にお札貼ってるくらいだったし。


 雲行きが怪しくなって来たのは3回目くらいから。

 行ったら何の塗料か分からないけど、赤くてどす黒い色のそれで、押し入れの襖いっぱいに米粒みたいに細かい文字びっしり書いてたんだよね。もう本当に鬼気迫ってた。

 でもまぁそう言う儀式の手順もある気もしなくもないってレベルだから、これもまだ何とか分かる。

 

 4回目から訳わかんなくなるんだよなぁ。折角書いた襖の細かい文字をそこそこデカい消しゴムで消してたんだよ。

 もうね、何か今までの儀式とは比べものにならないくらい必死だったし、声かけても全く気が付かないから、めーちゃんの手を止めようと思って、消しゴムに俺が手を伸ばしたら、物凄い勢いで怒られたんだよね。

 何か触ったら儀式が最初からやり直しになるみたいでさ、ちょっと悪い事しちゃったよ。


 最後、5回目が本当に4回目以上に意味不明だった。寝室行ったら、めーちゃんが押し入れの中で、ずっと『ニンニク』って唱えてるんだもん。

 今朝方の退職願の時のような詠唱なら、儀式としてまだ分かるんだよ。

 なんで呪文が『ニンニク』なのかが本当に謎なんだよ。

 ちょっとだけ、めーちゃん狂った? と思った俺は多分おかしくないはず。

 さっきの消しゴムの件がなければ、押し入れ開けて『ニンニク』について問い詰めたかったよ。

 でも万が一これが中断したら、儀式失敗になるかもと思ったら、とにかく『ニンニク』が終わるまで待つしかなかったよ。


 幸いにも数分で終わってくれたし、押し入れから出てきためーちゃんは凄く晴れやかな顔してたから良かったけどさ……良かったのかな?

 まぁスレ住民からの質問を終えて、『ニンニク』と言う言葉を唱える意味を聞いたら、『そういうもの』と言う回答しか返ってこなくて、別の意味で神さまの人間離れした側面を知ったよ。

 そして案の定、『ニンニク』を唱えるの中断したら、儀式失敗だったので、俺の判断は間違っていなかった。


「リュっちゃん、神域化終わったから、ちょっと来てみてよー」


 寝室から俺を呼ぶめーちゃんの声が聞こえてる。


「今行くよー」


 とは言ったものの、若干の不安は残るなぁ。儀式があんなだったから、神域化がどんな感じになるのか全く想像つかないんだよね。


「めーちゃん、どんな感じ?」


 寝室のドアを開けた。


 !!


 俺は驚いた。俺の寝室は神域化していないのだが、まず空気が違った。

 静謐で凛としているのだ。それは例えるなら、清められた神社の雰囲気。

 明らかに儀式前とは異なっている。今朝方、寝室に入った時は、確かに普通の空気感だったはず。


 襖に赤黒い塗料でびっしり書かれていた文字は全て消え、新品のように真っ白になっていた。

 あんなに文字書かれていたら、文字が消し残されててもおかしくないだろうに、跡形もなくなっている。

 心なしかツルリとした石材的な光沢があるようにも見えるし……

 この襖、結構くすんでいたはずなんだけど。って言うか、これ襖のままだよね? 

 

「じゃじゃーん! リュっちゃん、アタシのベッドルームへようこそ。さぁ、入って入って!」


 めーちゃんは襖を背後に見る形で半身になって、両腕を襖の方に伸ばし、両掌を表に裏に返す。

 簡単に言ってしまえば、両手をヒラヒラさせて、襖へのきらきらエフェクトを自分の体全体で表現してるのだ。

 神さまだからか、本当にキラキラはしてるのには、ちょっと驚くけど。

 めーちゃん、どれだけ嬉しいんだよ。


「じゃあお邪魔しようかな」


 俺が言うと、めーちゃんは襖を開けて、先に押し入れの上段に上がった。

 そして俺も両手を上段の床に付けて、体を引き上げ中に入る。


 現状俺はちょうど押し入れの中と外の境界線にいる訳だが、この状態になって分かった事がある。

 まず寝室と神域に境界線は明らかにある。

 と言うのも、俺の肌に今まで感じた事のない感覚があるのだ。

 あえて言うなら、透明で液体でも気体でもない濡れない水。


 俺の体と空間が接する場所には、境界が水のように隙間なく俺と接している。それなのに視覚的には何もないのだ。

 壁と言うには形がない、水というには体積がない。

 気体と言うには広がりがなく、明らかに境界を形作っているのだ。


 多分、人間世界の物理法則の理から逸脱しているのが、この境界と言うものなのだろう。


 そして完全に体が押し入れに入ると更に驚く。

 寝室の空気感が静謐とするなら、押し入れの中は清浄そのものだった。

 うん、押し入れはレベルが1段階高くなってる気がする。

 寝室が神社の境内だとするなら、押し入れはご神体が安置されている本殿のようだ。

 何だかここで寝るだけで、清められそうだな。


「めーちゃん、凄いね。何か浄化されてる感じがするよ」


「そうでしょ、そうでしょう。アタシ、ここ作るの頑張ったもん!」


 憧れの押し入れ寝室のために、物凄く張り切ったのか。

 俗すぎるよ、めーちゃん……

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