スレ番9が退職するまでの顛末『今度こそ掲示板さんお世話になります』

「むー、なんで引き剥がすの? 感動のお出迎えなのに……」


 めーちゃんは不服そうだ。


「いや、とにかくちょっと、まずい事になりそうだったからね、イロイロと……」


 詳しい事情の説明は無理だ、これで察してくれ。


「むー、納得はしてないけど、分かったよ。リュっちゃん……」


 そう言うと、めーちゃんは俺の手を引き、リビングへ向かうようにと促す。


 ふー、何とか納得してくれて良かった。


「あのね、ちょっと相談があるんだけど……」


 俺がリビングのソファーに座ると、めーちゃんがそんな事を言い出した。


 対するめーちゃんはうつ伏せに軽く寝転がり、両腕を俺の太ももの上に、ぐで~っと伸ばし顎も俺の太ももの上に乗せている。


 決して行儀がいいとは言い難い体勢だが、くつろいでいると言うのが、体全体からにじみ出ていた。

 元は俺の家だけど、めーちゃんが馴染んでくれて何よりだ。


「相談?」


 なんだろう、トイレや風呂の使用ルールかな? 俺は喉を少し潤したくて、なんだかんだで昨日入れたまま飲めなかった紅茶を口に含むと飲み込む。

 もう冷めちゃって温かさの欠片もないな。


「あのね、リュっちゃんの家、神域化したいんだけど……」


「ゲホゲホゲホゲホ……」


 俺は思わず咳き込んでしまう。事の重大さと唐突さに驚く俺は多分間違ってない。


「大丈夫? リュっちゃん!」


「大丈夫、大丈夫……ちょっと咳き込んだだけだから」


 めーちゃんが背中を擦りながら、心配層にこちらを覗き込む。


「神域化って、そんな簡単に出来るの?」


 少し落ち着いてから、俺は根本的な事を聞いた。


「ん? 出来るよー」


 話によると、神さまがその場所を気に入って、その場所の所有者が、それを了承すれば神域化出来るらしい。

 だったら、世の中神域だらけなんじゃないの? と思うのだが、神さまが気に入る場所って言う条件が結構難しいらしい。


 古来だと景色がいいとか、何となく心地いいとか、地脈? とか、龍脈? が強い場所が、神さまの気に入る場所になっていたそうだ。

 

 その基準を俺の家に当てはめると、めーちゃん曰く俺が住む場所だから心地いいし、無条件でお気に入りの場所となるとの事。


 で、神域化が何故必要かと言うと、一言で言うと神力の補充のためらしい。

 人間世界で神が力を振るう場合、体内にある神力を消費するようで、神力は神域にいることで回復するそうだ。

 それだけでなく、人間世界にいる場合は何もせずにいても、少しずつ神力を使うとの事。


 つまりスマホのように定期的に充電しなければならず、神さまにとって、神域とは充電器のようなものらしい。

 

 そっか、俺がいる場所がお気に入りの場所か……うーん、なんだが、その照れる。


 とはいえ、神域化するのはいいのだが、家の中を全てを神域化されるのはちょっと困るなぁ。


 寝室を神域化された場合、起きたら家の外は数日経っていましたなんて事になると色々困るし。


 リビングを神域化とかした場合、書類の提出期限や公共料金とかの支払い期限なんかを、意図せず破る可能性もある訳だ。


 トイレや風呂や台所なんかを神域化すると、待ち時間が10倍になるから日常生活に支障がきたしそう。


 それにトイレで神力充電する神さまとかは、さすがに神さまの威厳的にも問題ありそうだもんなぁ……


「神域化してもいいけど、家の中全部はちょっと困るかな。寝室は神域化してもいいけど、それ以外は神域化しないで欲しいな」


 俺は今考えた事をめーちゃんに伝え、俺の寝室はめーちゃんの部屋にしていいし、俺はリビングで寝る事にするから、それでいいかと尋ねた。


「折角、同じ家にいるんだから、一緒の部屋で寝たいのー」


 めーちゃんが予期せぬ角度から、俺の提案に難色を示す。


「だけどさ、さすがに寝て起きたら数日経ってたは、日本ダンジョン化計画の面から考えてもまずいって!」


「むー……」


 不満そうではあるが、俺の言い分の方が正しいというのも、分かっているのだろう。


 めーちゃんはひと唸りすると、それ以上は何も言えなくなっていた。


「分かった……それじゃ寝室だけ神域化してくる」


 本当にしぶしぶと言った風情でめーちゃんはリビングから出ていった。


 出来るだけ、希望は叶えてあげたいんだけど……でもこればかりはなぁ。

 そんな事を思っていると、ドタドタと足音が響いてくる。


「リュっちゃん! ちょっと来て!」


 先程までとはうって変わって嬉しそうなめーちゃんの姿と勢いに押されたが、そんな俺にお構いなしにめーちゃんはソファーに座る俺を立たせる。


 そして俺は手を引かれ、強引に寝室へと連れていかれた。


「リュっちゃん! 寝室に襖の押し入れがあるなら、そう言ってよー」


 めーちゃんは押し入れに対して、何故か妙にテンションが高い。


「リュっちゃん、開けていい?」


「い、いいけど……」


 とは言っても、うちの押し入れ特に何もないけどなぁ。

 下段はシーズン外の服を入れておくケースと、季節家電が入ってるだけ。上段は殆ど使わない客用布団が入ってるだけだ。


「理想的! リュっちゃん、この布団、私の布団にしていい? 私、押し入れを自分の部屋にする!」


「それをめーちゃん用布団にするのはいいけど、さすがに押し入れを寝室にするのはちょっと……」


「だって、アタシ青いタヌキ型ロボットに憧れてたんだよ!」


 めーちゃんって、もしかしてあの国民的漫画家の作品大好きだったりする? コ◯ーロボットが出てくるも、あの御大の作品だったよなぁ。


 俺はちょっと遠い目をして、今は亡き御大の作品に想いを馳せた。御大、あなたの作品に神さまも夢中ですよ。


 めーちゃんはそんな俺に対して必死に、どれだけ押し入れ寝室に憧れてたかを熱弁する。


「分かった、分かったよ。めーちゃんが、そんなに言うなら押し入れ寝室にしていいからっ!」


 俺はめーちゃんの熱意に負けた。


「やったぁ! ありがとう、リュっちゃん。あとね、あとね、机の一番幅の広い引き出し、昨日私たちがいた神域と繋げてもいい?」


 めーちゃん、あの神域に行くときは、タイムマシンに乗り込む気分に浸りたいんだな………


「引き出しの中身出してからならいいよ」


 俺は力なくそう言った。多分、表情は何とも言えない感じになってるだろうなぁ……まぁ、なにはともあれ、喜んでくれて何よりだ。


「じゃ、俺はリビング戻ってるからね」


 昨日、出来なかった意見募集のスレ建てを今度こそすべく、俺はリビングに向かった。

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