第35話


「それじゃね、ばいばい!涼香、星ちゃん!」


手を振り出ていく咲良ちゃん。


「あはは、ごめんね。連れてきてばたばたと」

「いえ、話せただけでとても嬉しかったです!」

「そっか。誘ったかいがあった。ちょっと部屋片付けるから、ソファー座ってて」

「あ、私もやります」

「いいの?ほんまに良い子だなぁ、星ちゃんは」

「えへへ」


なんかお姉ちゃんみたいだな。美夜お姉ちゃん思い出すわ。久しぶりに夜に通話しようかな…。


最近はお互い忙しいのもあってしてなかったからな。美月ちゃんも一生懸命やってるだろうし、邪魔したくないから通話はしてない。


基本長くなりがちだからね。声をきくとどうしても通話切るのがさみしくなるし、ついつい睡眠時間削っちゃうし。

美夜お姉ちゃんはちゃんとメリハリつけてくれるからあれだけど。


いずれにしても私も寂しくなってしまうから控えてる。


「ねね、星ちゃん」

「はいっ」

「ここの下の階にある一部屋、あたしが借りて住んでるんだけど、ごはん食べてかない?」

「ごはん…」

「あ、予定あった?」

「いえ、大丈夫です。家に連絡いれておけば…ていうか、ご馳走になっていいんですか?」

「いーよいーよ!だれかと食べるごはんは美味しいし、楽しいもん」

「わかりました!ではぜひ!」


清水先輩の部屋はアニメグッズに塗れていた。壁にはポスターが張られまくり、棚にはアクスタやフィギュアが並べられまくり。

そしてその大量のグッズを凌ぐレベルのぬいぐるみの山。


とはいえ、綺麗に飾られていてごちゃごちゃ感は少なく、すっきりとした印象。部屋自体が広いからかもな。


リビングの他に三部屋あって、PCのある配信部屋、寝室、空き部屋となっている。

ちなみにさっきアリサちゃんが配信していた部屋は、数名のひるどきライブのライバーがお金を出し合って借りている配信専用の部屋。

清水先輩も大体はあそこで配信をしている。メン限はこっちでみたいな感じで使い分けてるっぽい。


(なんかそういうのいいな。ライバー仲間で集まってとか楽しそう)


「…で、これがこうで…」

「あー」


夕食まで時間があったので清水先輩に切り抜き講座をしてもらっている。いや、実のところ今日って予定つめつめで色々と入れていて時間は無いんだけど、でもこんな機会は滅多にないからな。

スキルをできるだけ吸収して、私もレベルアップしないと。


彼女の切り抜き師としての腕は凄まじい。クオリティもさることながら、その投稿スピード。

ライブ配信中にそのライブ内の切り抜きshortを投稿するなんて神業を行ったこともある。


エリスの切り抜き師には三人の凄腕がいたけど、チャンネル登録者100万人に到達できたのはその人達の力がかなりでかかったと思う。

そして、その中でも清水先輩は別格だった。私専門でやってくれていたってのもあるけど、投稿本数は他の二人の3倍はあった。


(…感謝してもしきれない…)


お礼をいうとそのたびに「好きでやった事だから」と彼女はいう。


切り抜きの労力を考えると、好きだけでやれることでもない気がするが。けど、彼女の作ったあの動画たちからは、確かに好きという愛情を感じる。いまでは私とエリスの大きな宝物だ…。


(…けど、そっか)


清水先輩が投稿してくれた最後の切り抜き。それは彼女がライバーになり活動を始めた頃と重なっている。

あの頃は突然、諸事情で切り抜き活動を休止するとお知らせがあってかなり驚いたが…そういう事だったのか。


そこでふと疑問が出てきた。さっきは聞けなかった、アリサちゃんにした質問。


「どうして清水先輩は、ライバーになったんですか」

「…え」


どきり、とした。


始めてみた笑顔じゃない先輩の顔。つねににこにこしていた彼女の、虚を突かれたような表情。

清水先輩の素の何かを垣間見た…そんな感じがした。


…ふっ、とまた笑顔になる。元通りの清水先輩に。


「ふふ、さっきも言ったでしょ?エリスちゃんに憧れたんだって」

「…あ、言ってましたね。すみません」

「ううん。でも、ちょっと思い出しちゃった」

「なにをですか?」

「あたしがなんでエリスちゃんに憧れたのか」

「…なんでなんですか」

「一言でいうなら…楽しそうだったからだね」

「楽しそう」


あー、わかる。かなり、わかる。

前世とかそれでV良いなぁって憧れたの思い出した。

たくさんの流れるチャット、大勢の人がいて、同じ時間を共有しているあの空間。


「そ、楽しそう。VTuberの事はよく知らなかった。アニメのキャラクターなのかな?くらいで…でも、エリスちゃんが楽しそうにリスナーさんとお話しているのをみて、勇気をだしてコメントして、あたしも楽しい気持ちになった。だからあたしもしたいって思ったんだ」


にこにこと笑う清水先輩。思い浮かべるように視線を上へ向けて、座りまるめた体をゆらゆら。


「いやあ、けどエリスちゃんがまだ小学生だって知った時はびっくりしたなー。ほら、2年目くらいにその証拠とか言って、実写のダンスshortだしたでしょ?あれみるまで、そういう設定のアニメキャラクターだと思ってたからさ。…同じ小学生…ううん、同じじゃない。あたしより年下の子が、あんな風に輝けるなんて…衝撃的だったよ。きらきらしてて、カッコよくて、ヒーローみたいで…世界が光ってみえた」


…お、おお…照れる…ってーか、恥ずい。大袈裟ですよーとか照れ隠しもできねえガチの雰囲気。

…けど、嬉しい。ほんとに好きでいてくれてるんだ。エリスのこと。


「んで、いてもたってもいられなくてライバーになったんだ。小学生のときは無理だったけど、なんとか中1の時に事務所に入って」

「え…すご」

「いっぱつ合格ですよ、ふへへ〜」


あの頃の俺には漠然と想像するだけで、ちゃんと理解はできなかった。でも、今…こうしてライバーをしている私には、彼女のそれがどれだけの努力と頑張りの元に勝ち得たものなのか理解できる。


未成年、しかも中1で大手、ひるどきライブ。普通は入れない。

そこに至るまでの障壁の多さもよういに想像がつく。心が折れそうになることも、無数にあっただろう。

そして、いまもそれに苦しむ毎日だと思う。


(…熱…)


同じだ。清水先輩も…私と同じ熱を持っている。苦しんでも、辛くても、大変でも…好きな事に全てを捧げ、同じ方向をみて歩く仲間。


なんだか一人じゃないんだって思えて、それがすごく嬉しいな…。


(…はやく美月ちゃんも、ここに)


「と、調子に乗りすぎたか。エリスちゃんの前だからついうれしくて!へへっ」

「いえ、もっとたくさん聞かせてください。清水先輩のこと」

「おおー、そうかい?でも、あたしも聞きたいんだけどな、星ちゃんのこと。どうしてライバーを目指したのか、はんで小学生で始めたのか、頑張れるのか」

「そーですねえ、私がなぜ小学生から始めたのか…」


それからたくさんお話した。好きなゲーム、漫画アニメ、VTuber関係の話題や、とにかく色々…。

でも、家族の話はあまり乗り気ではなかったように感じた。私はそれがちょっと気がかりだった。


(…あの表情、あまり触れないほうがいいか…)


※※※


「たこ焼きうまぁあああ!!」

「でしょでしょ!!」


タコパです。清水先輩の焼くたこ焼きは絶品でした。ありがとうございます。


ぷしゅ、と赤い缶をあけ飲む清水先輩。


「くあああっ、さいっこー!!うへへいっ、いえーい!!」


…あれ、なんか様子が変じゃね?


微かな変化と違和感を感じつつ、たこ焼きを頬張っていると。

突然かくんと脱力し、椅子に項垂れた。


(…え?)


「…すー…すー…」


「…清水先輩…?」


…ね、寝たあああーーーっ!!?


あのテンション、酔っ払いのような…これ、飲んでたのってまさか…


「ド◯ペ(ドクトルペッパー)※炭酸ジュースです」


酒じゃねえ!!まさかこれで酔ったのか!?


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