第27話


ゲーセンで絡んできたのは、小学校の同級生宮田。そして奴がいつもつるんでいる取り巻き2人。


(…くそ。めんどくせえ事に)


黒髪眼鏡の優等生で、教師からの信頼もあつかった。

いや、教師からだけじゃない。周りのみんなはあいつの事を信用しきっていた。


『痛っ!』

『え…?』

『先生、相澤が急に叩いてきて…助けてください!』

『は!?いや、先に髪引っ張ってきたのは宮田だろ!』

『相澤お前、またか。宮田がそんなことするわけないだろうが。この不良が!』

『な…』


蘇る小学生の頃の暗い記憶。6年生の頃には、宮田は受験のストレスからか、そうやって俺に濡れ衣を着せて鬱憤を発散していた。


…もう関わりたくなかったのに。なんでこんなとこに。


「はは、わかりやすくグレたな。相澤」

「ほんとだ、金髪にピアスまでして。マジで不良じゃん」

「見るからに落ちこぼれだな、あはは」


宮田が俺を馬鹿にし始めると、取り巻きの2人もそれにならう。これがいつものパターン。

宮田が俺にケンカをふっかけ、取り巻きが援護して俺が悪いという空気を作る。


『――いや、見てたけど今のは相澤が悪いよ』

『――相澤から先に酷いこといったんだろ。みてたぞ』


とか。嘘の証言をして、クラスのみんなを味方につけるのが常套手段だった。


(…)


忘れようとしていた記憶が蘇る。気がつくと呼吸が荒くなり、手が震えていた。


「おっ、ビビってる。ウケる。見た目こんなんしても中身変わんねーんだな、やっぱ。素行の悪い落ちこぼれ、相澤あいざわ依織いおりちゃんは健在だったわけだ。はは」

「…はなせ」

「は?なに、その反抗的な態度。また痛めつけちゃうよ?あの頃みたいにさ」


ぞわりと背筋が凍る感覚。


「…あ」


あたまが真っ白になる。謝らなきゃ、と反射的に口が開きかけた。

じゃないと、痛くされる。追い込まれる。また、苦しい目に――


「――何してるの?」


声がした。…綺麗な、花のような美声に目を惹かれ、そちらに目をやる。

するとそこには、白いパーカーをきてフードを深くかぶった誰かがいた。声からして女だろう。


心を打つような、綺麗な声だと思った。


そんな場合じゃないのに。


宮田がいつもの調子で取り繕い始める。


「…なに、って。こいつ僕らの同級生で、いきなり暴れ出したから止めてたんですよ。暫くみないうちに不良になりやがって。お店にも迷惑だろ大人しくこっちこい」


彼女にみえない角度で俺を睨見つける宮田。従うしかない。

でなければ、また…あの頃のように。


「…えっと。でもその人、暴れてはいなかったと思うんですけど」

「…は?」

「私、ずっとみてたんです。なんか揉めてるなーって思って。先にちょっかいかけてたの、あなた達の方ですよね?」


宮田に指をさすパーカー少女。


「あなた達が無理やり手を掴んで引きとめてたところ…じゃん!スマホで撮ってたりしてっ」

「は…え?」


彼女はポケットからスマホを取り出し、ちろりと小さな舌を出した。…ずっと俺と宮田達のいざこざを撮っていたのか。


「お前、なんなんだよ…苛つくな」

「苛ついてるのはこっちなんですけど。嫌なもんみせられてさー。昔を思い出して気分悪くなる」

「…は?何言ってるのかわかんねーけど。とりあえず撮った動画消せ」


宮田は俺の手をはなし彼女に詰め寄る。


「まて、宮田!さすがにヤバいって」


取り巻きが止めに入り、踏みとどまる宮田。するとパーカー少女は「わかった」と言った。


「じゃあこうしよっか。ストバで対戦して、私に勝てたら動画を消してあげる」

「は?」


そこにあるストバ9の筐体を指さし彼女はそう言った。


「お前、ストバやんのか?」

「そこそこ」

「…いいぜ」


宮田はおそらく内心笑いを堪えている。なぜなら奴のストバの腕はかなりのものだ。

最近あったオフラインの大会でも上位にくいこむほどで、さっきもかなりの数連勝していたみたいだ。


体型からして、年下っぽい。あの子がいくら上手くても…宮田には。


「じゃあこっちも条件だすからな。…俺が勝ったら三人に飯奢れ。あと土下座だな。そんでもちろんその姿を動画で撮るから。これは勝手に俺達を撮影してた罰な」


その条件をきいた瞬間、俺はヤバいと思った。彼女は絶対に負ける。

宮田のことだ、無理やりにでも土下座の動画を撮るだろう。

そしてそのあとそれをつかって彼女を脅すに決まってる…SNSに投稿するぞとか、そんな感じで。


(…と、止めなきゃ…俺のせいで)


「ま、まっ…俺が謝るから」

「うるせえよ、相澤。いいからみてろ」


お前が素直に言う通りにしないから、こいつが酷い目にあうんだぞ。…そう言われたような気がした。


ストバの筐体へ。椅子に座る、少女と宮田。

コインを投入し、対戦画面に。


「何回勝負だ?」

「んーじゃあ、三回かな」

「…わかった」


にやにやといやらしい笑みを浮かべる宮田。勝ちが確定しているこの状況だ、もうその後のことを想像して愉悦に浸っているんだろう。


「あ、もう一つ」

「…?」

「そっちも追加していいから、私が勝った時してほしいことあるんだけど」

「…いいぜ。なんだ?」


笑いを堪えるのに必死という感じだった。取り巻きも顔を見合わせくすくすと声が微かに漏れ出していた。


(…あの子、宮田がどれだけのプレイヤーかわかってないから)


ちょっと上手いくらいで勝てる相手じゃない。俺も昔無理やり対戦させられた事があるけど、一度も勝てなかった。

ストバが好きで、自信もあった。けど、悔しいけれど宮田に完膚なきまでにやられた。圧倒的なゲームの才能。


今シーズン世界ランキングでもかなりの上位プレイヤー。


(止めなきゃ、止めなきゃ…始まったらもう)


…空気が、雰囲気が…声がでない。


「んで、なんだよ。お前が勝ったらなにすんの、僕は?」


彼女はすっと俺へと指をさす。


「その子に謝って、もう二度と関わるな」


キャラクター選択画面。


そう言ってパーカー少女は筋骨隆々のプロレスラーを選んだ。


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