前世のあるVTuberが夢を掴むお話
カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画
プロローグ
「…ふぅ…」
私、
広いグレーの部屋、天井壁、至る所に設置されたカメラが私を捉えている。
未だかつてない緊張感。手汗が滲むのを感じ手のひらをみた。
黒い布に覆われた手。いや、手だけじゃない、今の私は全身黒い布に覆われている。
ところどろころに小さな丸いマーカーがついているこれは、トラッキングスーツという。
「ぷっ、あはっ」
横の方で待機している三人の女子。彼女らもまた私と同じく黒いスーツに身を包んでいる。
「…なんですか、先輩。なに笑ってるんです」
「や、ごめんね。
先輩がキリッとした表情で私の顔を真似た。確かに面白い。私は思わず「ふ、確かに」と吹き出してしまう。
ふと先輩の隣にいた子も両手を口元で隠しくすくすと笑っているのに気がついた。
「あ、美月まで笑ってる!」
「ふふっ、だって面白くて…星、なんだかこれから仕事する真剣な泥棒みたいで」
「確かに!それだね、美月ちゃん!プロフェッショナルな泥棒みたい!」
「いやなんでプロフェッショナル!?」
あはは、と笑う三人。私の緊張がやわらいでいた。先輩、美月、そしてその横にいた先輩が口を開く。
「…ま、500万人の心は奪っているわけやしね。泥棒っちゃあ泥棒やなぁ」
「お、確かに!」
「おお」
『――ライブまであと2分だよ。本名言わないように気をつけて』
「あ、すみません!」
イヤーモニター越しにマネージャーから注意された。そうだ、しっかりしなきゃ。これから重要なライブが始まる。
マーキングされた位置に私は立ち直す。目の前には大きなモニターが2枚設置されている。
片方はコメント欄で、もう既に待機してくれている3万人程の視聴者がこれから始まるライブを盛り上げてくれている。
そして、もう片方のモニターには満点の星空が広がる城がバーチャル空間に映し出され、その中央に私のVTuberが立っている。
1周年記念の生誕祭。今日の為にママが描き下ろしてくれた特別な衣装を着た私の分身。
今日まで繰り返し見てきたが、何度見ても可愛らしく頬が緩んでしまう。憧れたVTuberになれて、こんなに綺麗な衣装を着れて…。
…頑張ってきてホントに良かったな。
ふと美月がピースしているのが横目に入った。にこりと微笑む彼女。小さな白い蓮の装飾が付いたヘアピンが輝く。
「沢山の人が祝福してるよ!めいいっぱい楽しんで、幸せな姿を皆に見せてあげようね!!」
これまで、ずっと側にいた美月。親友である彼女の言葉に目頭が熱くなる。配信開始一分前。このタイミングでなんてこというんだよ…。
(ありがと、うん…そうだね)
『――配信開始』
この世界に生まれてこれて、俺は…私は本当に良かった!
《コメント欄》
『うおおーーー!!!おめでとー!!』
『すげえよマジで!』
『1周年記念512万人とかマ?』
『化物過ぎるw』
『JSデビューから普通じゃなかったからなw』
『この勢いだとあっという間に600万いくだろ』
『いや700超え狙える!!』
『おめ』
『おめでとー!』
『赤スパの量ヤバすぎだろww』
『もう1000万くらい投げられてて草』
『1周年ってレベルじゃねえぞぉ』
『うわあ!衣装やべえ!!』
『綺麗なドレスだな』
『黒は白髪との相性いい』
『一曲目やばw』
『やっぱ歌上手えwww』
『表現力やば』
『小学生時代からのファンですー!!』
『夜空みたいなドレスだな』
『いやまてまて視聴者数22万てなに!?』
『ふぁ!?』
『まだ増えてきてるw』
『まってwコメ流れ速すぎてw』
『おめでとうおおおお』
『大好きー!』
『愛してるぞーーー』
『おめでとう!!』
『始めてコメントします!おめでとう!』
『生まれてきてくれてありがとう!!』
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