第7話 自白と呪物

「山崎くん、ちょっと良い?」



クラスの佐藤から放課後呼び出された。


正直、殆ど絡みがない。

佐藤は温厚で誰にでも優しい。

見た目はちょっとポッチャリで抱き心地良さそうな餅肌、髪も女子が羨むサラサラの艶々キューティクルなマッシュルームカットだ。



「どーしたの?」


「山崎くん、sugar mush-roomて知ってる?」


「知ってる知ってる!超有名ボカロPのDr.mashがやってるやつでしょ?」


YouTubeでも超有名だった。

俺も好きでここの曲を歌ってみたの奴で歌ってアップした事もあった。


「それ、僕。」


そう言ってYouTubeのアカウントの個人情報のページを開いて見せた。


「うっそ!マジ!?」


「うん。自分からは皆に言って無いけど、知ってる人は知ってる。騒がれるの好きじゃないから黙ってて貰ってるけど」


「へぇー!!マジ驚き!」


「山崎くんってさ…know Aのエルでしょ?」



「…」




最近身バレが流行りなんか…?


もしや神崎さんが腹いせに言いふらしてんのかな?

そんな事する子には思えなかったけど…


まああの約束も一方的にこっちから言っただけだしなぁ…


それに俺もまあ、酷い扱いしちゃったしなあ…

仕方ないっちゃ仕方ないか…



「前にエルが僕の曲歌ってたよね。」


ハイ…歌いました…『うるせーわ』を…


「まあ、自分の作った曲歌ってくれてる人は一応チェックはしててさ。エルは凄かったから良く覚えててさ。」


へぇー。作者に覚えられてるってすげぇなあ俺。

なんつって。



「特に声が凄いってのかな、音域とか、地声であれだけ高音や低音出せるのが」


まあ、確かにあの曲アップダウン激しいんだよな。それがまた歌ってて面白いんだけど。


「でね、僕普段から声には敏感でさ。山崎くんの声にアレっ?て思って。」


「…」



「エルの歌声注意深く聞いてたら、やっぱり山崎くんの声だって分かった。」


「すげぇな…人間声紋分析機だなあ」


「まあ、四六時中音や声の調整やらしてるからね。」




「あー、認めまーす。俺はエルとしてバンドでボーカルしてまーす。この事皆には言わないで。騒がれたくないから。」


「分かってるよ。僕も同じだから。」


「そりゃ良かった。で、何の用だったの?白状させるだけが目的?」


「うーん、まあ、直ぐでなくて良いんだけどさ、僕の曲のボーカルやってよ。多分エルじゃいと歌えない。エルの声イメージして作ったし。」


「えー!マジで!すげぇ嬉しい!やりたーい!んだけどなあ…」


「?」


「今、一応バンドのボーカルやってるからなあ。一人抜け駆けして有名ボカロPの曲歌うとなるとなあ…どうなるかなあ。俺、小心者だからなあ。バンド追い出されるのが怖い…」



「成る程ねー。でも山崎くんがやる気有るのが分かって良かった!まあ、タイミング出来たら頼むよ。僕はそれまでこの曲寝かせとくから」


「ごめんなあ。マジ嬉しかったよ。」


「これは絶対山崎くんにしか歌いこなせないから結局お蔵になるけどね。あはは」


「まあ、俺らはお互い秘密のある身なんでクラスでは今まで通りに宜しくね。」


「うん。分かってるよ。」





何か観察されてるかもって思ってたのは間違って無かったらしい。


まあ、脅されたりとかじゃ無くて良かった。



何とかこのまま無事平温に卒業したい…





○○○○○○○○○○





「ハイ!これ家庭科で作ったからプレゼント!」



「…」


神崎さんが…

うちのクラスに乗り込んで来て俺の机の前にしゃがんで見上げている…


そして何か呪物を差し出して来た…



「なあに?コレ…」


「巾着だよー?小物入れに使って!」


「…」


形は四角…とも丸とも言い難い…


左右の片方は四角で片方は丸い。

上部は真っ直ぐではなくて傾いている…


逆にどうやったらこの形に作れるのか知りたい。

実は一周回って器用なんだろうか?


紐も一応通して縛れるようにはなっているが途中縫い目がなくて紐が剥き出しだ…


あれか、端からに拘らない、何処からでも紐が引っ張れる仕様なんだな。

便利なんだな。多分。


色も…派手なピンクだ…紐は金色だ…

ギャルには似合ってるけど…

俺が持つのはどうなんだろう…


「あ…有難う…」


周りも目が釘付けになっていたので受け取り拒否が出来なかった…


「山崎の事思いながらひと針ひと針縫ったからね!ちょっと血とか染み込んでるかもだけど!えへっ」



怖いーー!


やっぱり呪物だコレ…

糸に髪の毛とか使ってそう…



「じゃあねー!捨てたら呪うからね!」



そう言って神崎さんは笑顔で帰って行った。




「山崎…お前何やらかしたの…」


「わ…分かんない…怖い…カツアゲより怖い…」


「まあ、多分捨てたら殺されそうだから…良いお祓いとか分かったら教えてやるから…それまでは取り敢えず保管だな…」


「うん…有難う…」





皆に同情されていた…

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