憧れのメインヒロインに会えたが様子がおかしい
みょん
メインヒロインの様子がおかしい?
諸君、俺はラブコメが好きだ。
そんなラブコメを愛する俺は、アニメや漫画にゲームまで多くのラブコメに目を通してきた。
その中でも一番好きなラブコメは“茜の音は宵に響く”だ。
平凡だが正義感のある主人公、そして四人のヒロインたちを軸に描かれる物語であり、元々は漫画から始まってアニメ化までされた人気作品なのだが……その中でも特に、俺はメインヒロインの
主人公の幼馴染であり正統派ヒロインでもある茜は、明るい髪色のスタイル抜群美少女であり、文武両道で家事全般も得意とほぼ欠点のないヒロインだ。
それだけでもヒロインとしての風格はもちろんだが、茜はギターが好きでよく弾き語りなんかもしてくれるのだ。
『茜のギターは好きだな……眠くなるくらい気持ちいい音だし』
『眠くなるは褒め言葉なの?』
『あ、えっと……それくらい最高ってこと!』
『……ま、いいよ。あなたの言葉はなんだって嬉しいし?』
これは茜がはにかむシーンなんだが、ここの茜が最高なんだ!
文面的には特に照れたりしている風には見えないものの、絵ではしっかりと嬉しそうな描写がされており、そこが本当に可愛かった。
主人公しか知らない趣味でもあるギターだけど、茜はとにかくそれを褒められるのが好きな女の子なのだ。
『私、あなたが好き』
『俺も……俺も茜が好きだ! 何度生まれ変わっても、俺は絶対に茜を好きになる! だから茜、ずっと一緒に居よう!』
そして最後のシーンも本当に良かった。
主人公の台詞が少々重たいような気がしないでもないが、一応主人公もずっと幼い頃から茜のことが好きだったわけだしな……ったく、読者の立場だけど茜を射止めた主人公には軽く嫉妬した。
けどこれで物語は綺麗にハッピーエンドとなったのだ。
茜はキャラ人気投票でも一位を確立したキャラでもあるし、アニメで更に人気が出てグッズなんかも売れまくったんじゃないかな。
「……なんてつい語っちまったが……くぅ!」
さてさて、何故いきなり自分の好きなラブコメに関して語りまくったのか……それは目の前の光景にあった。
「まさか……こんなことになるとはなぁ」
視線の先、そこに居るのは二人の男女だ。
向こう側に向かって歩いているため背中を眺める形だが、俺はそれだけで誰か分かっていた。
「…………」
直前にラブコメの話を少々詳しく語ったのだが、どうやら俺は“茜の音は宵に響く”……通称“おとよい”の世界に転生したらしい。
転生なんて眉唾物と思っていたんだが……しかし実際にあったんだ。
この世界がおとよいの世界だと気付けたのは地名や学校の名前に既視感があったのと、こうして実際に主人公とヒロインを見てしまったからだ。
「……なんで俺は転生したんだ?」
よくあるのは事故とか病気とか……全く記憶がないけど、自分がどうして転生したかは少し考えたくもないな。
前世の記憶を思い出したのはつい先日で、同じ中学に通っていたあの二人を見た瞬間だった。
その時は凄まじくパニックに陥ったけど……てか両親に関しては前世と同じだったのもあって、そこは俺の精神を強く安定させてくれた。
「まあでも難しいことは考えても仕方ねえなぁ……なんつってもあのおとよいの世界に来れて、あの二人の恋愛を間近で見られるんだからよ!」
正直色々と考えなくてはならないことはあるんだろう。
しかしおとよいの大ファンだった俺としてはこの光景を見れるのは凄く嬉しい……けど。
「…………」
ジッと見ていると胸に何とも言えない寂しさというか、空しさはある。
実際の目で見た茜はまだ物語が始まる前の中学生という段階だが、凄く美人で人気者で……遠目で見ていても目を奪われる女の子だった。
同じ世界に居れば喋ることも触れ合うことも出来るのに、それでも俺は決して主人公にはなれないモブなわけで……仕方ないことだけど、こうして視界に入った時に眺めるくらいしか出来ないんだ。
「まあでも、主人公に成り代わりたいとは思わないな……だって俺は涼とは違うというか、あんな風に正義感マシマシな人生は疲れて無理だわ」
だからこそ、今の立ち位置はかなり気に入っている。
中学を卒業したら彼らと同じ高校に入るつもりだし、そこで俺はしっかりとモブとして物語を見届けて……それをこの世界に転生した自分に対する特典にするんだ。
「我ながら最高の人生設計だな!」
さてと……それじゃあ改めて二人を観察するとするか!
茜と涼は幼馴染なので昔から仲が良いのは知っていたが、中学の段階からこれなら他のヒロインが割って入る隙なんてそうそうない。
それだけ茜は絶対的な幼馴染ヒロインだった……でも。
「……変だな」
だがふと、俺はあれっと思ったことがあった。
記憶が戻る前は一切気にならなかったというか、そんな風に見えてすらいなかったことがあるんだ。
今の俺だからこそ分かる……見えていること――それは涼の表情とは裏腹に、茜の表情があまりにも暗い……むしろ死んでいるんだ。
「どうしてあんな……俺の記憶だと、中学の頃とはいえ茜があんな表情をしたっていう描写はなかったはずだ……もしかして語られていない真っ暗な過去があるとか?」
いやほんと……表情が死んでるっていうか、心配になるレベルの虚ろな目を茜はしていて……てかなんで涼はあの表情に気付かないんだ?
「……あ、あれ?」
茜の表情に関して疑問に思った瞬間、今までの記憶に変化があった。
記憶にあった笑顔の茜……人気者だった彼女の笑顔が全て、あの表情へと塗り替えられていく。
『おっはよ~茜!』
『おはよう』
『今日も可愛いよ茜!』
『ありがとう』
『ねえ茜、一緒に遊びに行こ?』
『いいよ』
友人とのやり取りも……その全ての記憶に映る彼女の表情は、今と同じ死んだ表情なのに他の人は誰も気付いていない。
「……えっと、もしかして別人だったりする?」
ちょっと不安になってきたや……けど、逆にあそこまでの暗い表情を見せられると家庭事情とか気になっちまうぞ。
虐待とかはされてなかったはずだが……ってあ!?
隠れて見ていた俺だったが、ポケットに入れていたスマホが落ちそうになってしまい、慌てたせいで体勢が崩れてしまった。
「おっとっと! ……ふぅ」
何とかスマホを落とさずに済んだが、そこそこ大きな声を出してしまったせいで茜と涼に気付かれてしまった。
「……あ……あはは」
ふ、二人にジッと見つめられて気まずすぎる……!
茜も涼も同じ中学とはいえ話したことはないので、俺のことは全く知らないはずだ。
でも……なんか茜が目を丸くしてジッと俺を見てる?
……クッソ美人だなやっぱり。
てかこの時からもおっぱいでっか……っていかんいかん!
茜は憧れのメインヒロインなんだ邪な感情は抱いてはいかぬ!
「ご、ごゆっくり~!」
たぶん覗き見してたとは思わないだろうし、変には思われてないはず!
モブの俺が絡んでいいわけがないと思っているので、そのまま背を向けて逃げようとしたが……。
「ま、待って! 助けて……助けてよ!」
俺の背中に届いたのは、そんな悲痛な茜の声だった。
助けて……助けてってなんだ?
「…………」
俺は、何かの聞き間違いだと思ってそのまま家に帰ってしまった。
だがその日、俺はずっとその声に悩むことになる……そして休日が明けた学校で、別教室の俺の元に彼女はやってきた。
「……おはよう」
「えっと……おはよう」
……なんで?
突然の彼女の訪問、それは俺の日常を大きく変えてしまう合図だった。
憧れのメインヒロインに会えたが様子がおかしい みょん @tsukasa1992
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。憧れのメインヒロインに会えたが様子がおかしいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます