第2魂 辞めたくなってくれ

(ベアトリーチェさん

 めっちゃ良い匂い…)


前を行くベアトリーチェさんの足運びは

なんていうか…小気味良い?

カツンカツンってリズムが楽しい…というか?


「グランセレーナは初めてか?」

「はい!」

「どこから?」

「こせんじょーあとち…って田舎です!」


一瞬ベアトリーチェさんが止まる。


「そうか。随分遠くから来たな」

「そんなに遠いですか?」

「馬でも1週間は掛かる」

「へぇ〜」


1日ればすぐ着いたけどなー。


初めて見る街灯の光はとても綺麗。

ベアトリーチェさんの髪を照らしてるからかな?


「ベアトリーチェさんはおいくつなんですか!

 僕は14です」

「22」

「丁度良い感じですね!」

「どういう意味だそれは」

「良い感じは良い感じです!」

「はぁ…」


ベアトリーチェさんが振り返って

右手を振り上げて…僕のほっぺを打たなかった。

そっと触られただけ。


「いいかい?」

「はいっ…!?」


段々艶々の唇が僕の乾いた唇に近づいて。

バクバクと加速する心臓の音に耐えられなくて

目を瞑った。


(まさかそんな、ベアトリーチェさんもノリノリ…!?)


抑え切れない衝動が唇に走る。

まだ…まだ…まだ……??

でもすぐ目の前にベアトリーチェさんの

カワイイ息遣いが聞こえて来る。


「———いったぁ!?」

「君はとことん死霊術師ネクロマンサーに向いていないな」


デコピンLv.100をおばあちゃんとするなら

今の不意打ちデコピンはLv.200だった。

おでこが凹んだかと思った!!


「悪い事は言わない。

 早く辞めたくなってくれ」


頭を撫でるのが上手い、すごく。

まるでおばあちゃんに本気で引っ叩かれて

気絶する瞬間くらいの穏やかな気持ちだ。


只でさえ頭1つ分は違う身長差が

おでこを抑えて踞ると一気に大きくなる。

それが何か嫌で、思わずすくっと立ち上がった。


「ぜったい辞めたくないです!」

「…あー。どうしてかな?」


僕の気持ちが焚き火みたいに

じんわりでも良いから伝わるように

撫でていてくれた手を両手で捕まえて。


「ベアトリーチェさんに、カッコいいと

 思って貰えるまでは絶対にっ!」

「そうか。

 ———意外と男の子だな、君は」


気持ちが伝わった気は全然しないけど、

でも月光の様な瞳が少しだけ明るくなった

気がして嬉しい。


「それでは辞めて貰いたくなる様に

 早速キツい現場へと行こう」

「え〜??」


言葉と行動が全然合ってないけど…?

そうしてまた小気味良くなった先輩の

ステップの音を追い掛ける様に

不気味な夜のグランセレーナへと飛び出した。

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