最弱死霊術師は天国階—ベアトリーチェ—に恋をする。

溶くアメンドウ

第1話 君、最弱です。

え〜〜〜〜〜???


「一応、あの…長いっすよ?」


墓の都グラン・セレーナ。

デカい街並みに対して懐は狭い…のか?

オールバック刈り上げのお兄さんは

僕を鼻で笑った。


「関係ないよ。

 君———最弱です」

「マジっすか」

「マジっす」


羊皮紙の束がパラパラと捲られては

金色のペン先が引っ掻く。


「歴代最弱です」

「れ、歴代…??」

謐楽園アリギエーリが始まって665年の歴史の中で、だね」

「そ、そんなに…??」


おばあちゃん、もしかして都会の人って皆んな

メチャクチャに強いんじゃない?


自称・最強のおばあちゃんに育てられたから

多少は強い方の死霊術師ネクロマンサーだと

自惚れていたんですけど…


「あとは頁の右下の…そう。そこ」

「ったた…よいしょっ」


血判ってもうちょっと痛くない場所に

出来ないのかなーと毎度思う。


指先っていうのが嫌だよね。


「…よろしい。

 歓迎しよう、シュラー君。

 この……辺獄階リンボのペンダントを

 ぶら下げていたまえ」


ピカピカの小さいハチドリだ!

カワイイな〜♪


「これで僕も謐楽園の死霊術師!」

「の、雑用係だよ」

「田舎に帰ろっかな♪」

「では食堂へ行って、

 一番綺麗な女性のところへ…」

「すぐ行きます!!」

「…死霊術師の死霊が増えないといいが」



♦︎



しかし都会の建物は凄いよなぁ。

窓ガラスがおっきいし

廊下に雑草も生えてないし。


(人が沢山いる!! 祭りでもやってるのかな)


しかも若い。

女の子は皆んな綺麗だし

男の人は何というか…ハードボイルド?

歴戦のクマって感じだ。


「そして食堂って何だ??」


食堂っていうのは集会所…みたいなものだと思うので大きい部屋を探してみるんだけど。


「食堂ですか!」

「ここは小書庫だよ」


「食堂ですか!」

「礼拝堂です。食堂は其方を右に…行ってしまった」


「食堂です…かっ!? 間違えました!!」

「女子更衣室なら此処で合っているぞ」

「うわぁ!? なんか着て下さい!!」

「隊長、その子男の子ですよ」

「ごめんなさい!!!」

「あっおい…女子更衣室で合ってるんだがな」

「だから隊長、男の子ですってあの子」


———色々あったけど何とか辿り着いた。


「しかしまさか都会の女の子があんなに肉食系だったなんて…!」


おばあちゃん曰く『都会の箱入り娘は毎日刺繍と麻雀しかやってないイモばっか』らしかったけど、やっぱりそんな事はなかった。


しかしおばあちゃん以外の女の人の裸って初めて見たけど、綺麗だったなぁ…。


「此方だ、少年」

「はいっ———わあ」


もっと綺麗だ…。


食堂の端っこで頬杖を突いた女の子。

その人の方へ歩いてってると、

近づく程に綺麗さの解像度が上がってく。


(死んだ生き物の魂は皆んな1箇所に集まる

 らしいけど、その先にこんなに綺麗な人が

 いるとしたら安心して死ねるだろうなぁ)


お姫様…って感じの雰囲気。

落ち着きがあって色々な知識があって

優しそうで、お金とかも持ってそうな。


視線を動かすだけが、ただ髪が揺れるだけの事が

まるでその女の子を主役とした劇みたいに

輝いて見える。


「シュラーだな?

 私はベアトリーチェ。

 今日から暫く君の…先輩、かな。


 何か質問は?」


咄嗟に出た言葉は一つだけだった。


「あの…結婚とかしてますか?」

「してないが」

「出来ますか、ベアトリーチェさんって結婚」

「何を言っているんだ君は…」


おばあちゃん、僕は初恋を知ってしまいました。

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