第11節 水香が行く ー地獄界の海底編ー
@anyun55
第1話 未知の陣法
大海原に拡がる大海,,,その中に,ぽつんとやや大きな島があった。その島のとある屋敷の一室で,妖ナマコ族の族長と泡力下等学院の院長が会話していた。
族長「今年の農作物の収穫量が一定量を満たしていない。これでは,海神さまへの貢ぎ物として,決められた量に満たさない。さて,今回,派遣される検収人は,それで満足するだろうか?」
院長はイヤな顔をした。
院長「今年もですか?! 去年は美少女を2名も差し出したんですよ。親御さんに泣きつかれて,その対応に大変だったんですから?! 生徒を守れない院長なんて,もうやってられません!」
院長は憤慨して帰ろうとした。それを族長がなんとかとりなして,また席についてもらった。
族長「今回は,わたしの娘のユズハと息子のミズキを人身御供にする」
院長「え? ほんとにそれでいいのですか? でも,娘さんは受け入れらるけど,息子さんは拒否されるのではないですか?」
美少女は価値があるものの,少年など強制労働させたところで,劣悪環境のせいで,すぐに死んでしまう。まったくもって価値がない。
族長「大広場の奥にあるダンジョンは,すでに廃棄されて久しい。今では,検収人の出入り口になっているだけだ。だが,実は,10年ほど前に,ある探検者が偶然発見したものがある。それがこれだ」
そう言って,族長は古ぼけた一冊のノートを取りだした。そこには『禁呪書』と書かれていた。それを受けとって,院長は中身を見た。そこには,ある煩雑な魔法陣が描かれていて,その発動方法らしい文字も記載されていた。ただし,文字がまったく読めない。
院長「こんな意味不明な陣法,どうするんですか?」
族長「ミズキにそれを描かせて発動させる。発動方法は不明だが,ミズキの大量の血をかければなんとかるんだろう」
院長「・・・,それって,ミズキ君に死ねというのと同じことですよね」
族長は軽く首を縦に振った。
族長「どうせ人身御供にされて死ぬ運命なら,一か八か,この陣法にかけようではないか。 この部落には陣法に詳しいものはいないが,でも,少なくとも,爆裂とか火炎などの攻撃性の陣法ではないようだ。となると,転送陣法か,その逆の召喚陣法の可能性が高い。
もし,転送陣法なら,ミズキを別の地域に送ることができる。もし,召喚陣法なら,なにか貴重なものを入手できるはずだ。ミズキの命をかける価値がある!」
院長「・・・」
族長「そこで,その儀式を明日行いたい。転送陣なら問題ないが,万一,凶悪なものが召喚されてしまったら,目も当てられない。腕に自信のある生徒10名ほど集めてほしい」
この部落は,妖ナマコ族の単一部落だ。そのため,防衛隊に相当する組織は存在しない。何か事が起きると,泡力下等学院の生徒に依頼するのが慣例となっている。
院長「そこまで決心しているのならいいでしょう。では,場所はダンジョンの地下3層の広間でいいですね? 万一のことがあっても,ダンジョンの入り口を閉鎖すれば,危機を回避できますから」
族長「それで構わない。よろしく頼む」
院長が帰った後,族長は自分の息子のミズキと娘のユズハを呼んだ。
ミズキはまだ12歳だ。泡力下等学院に通って2年ほどが経過した。でも,大して進歩せず,やっと泡力で,白色(基礎)レベルから赤色レベル(初級レベル)に進級した。特に才能に恵まれているわけではないが,愚鈍というわけでもない。平々凡々といった感じだ。
ユズハは11歳。泡力下等学院に通って,まだ1年足らずだ。やはり,才能に恵まれず,未だに白色(基礎)レベルだ。彼女は身長140cm,胸はやや大きくDカップもある。彼女を人身御供に提供するなら,派遣される妖ヒトデ族の検収人も喜んで受け入れられるに違いない。
ミズキ「おやじ,なんのようでしょう?」
ユズハ「おとうさま,なんの用件ですか?」
族長は,なんとも無邪気なミズキとユズハをみた。彼はなんか教育方針が間違ったのではないかと思った。でも,もう遅い。もうこれ以上,ほかの小女たちを人身御供にさせるわけにはいかない。
族長「お前達,去年の今頃,泡力下等学院の生徒で,2名の小女が妖ヒトデ城に行ったの,知っているな?」
この質問に,ミズキが揚々として答えた。
ミズキ「は~い,知っています。なんでも,女性徒の間で泡力によるバトルを行って,優勝者が妖ヒトデ族の泡力中等学院に入学する権利を得て,びりっけつで負けた者は,妖ヒトデ族で1年間,強制労働されるって聞いてま~す」
この返事に,族長は小さく首を縦に振った。
族長「そうだ。今回は,お前達がその役目を担う」
ミズキとユズハはポカンとした。まったく意味不明だ。族長は言葉を続けた。
族長「もうほかの者たちにお願いできない。おまえたちは族長の息子と娘だ。お前達は,小女たちの代表として,妖ヒトデ城に行くことになる」
ミズキ「え? でも,行くのは,小女2名で男性は無理なんじゃないですか?」
族長「そうだ。よく知っているな。お前が行ったところで,すぐに殺されてしまうのが落ちだ。だから,お前に付加価値を与える」
ミズキ「え?」
族長は『禁呪書』をミズキに渡した。
族長「そこに書かれている陣法は未知の陣法だ。どんな作用が起こるのか分からん。でも,えてして陣法は,新鮮な血によって発動するものだ。ミズキ,お前,自分の血でその陣法を発動しろ! もし,転送陣なら別の地域に転送される。そこで新しい人生を歩め。もし,召喚陣法なら,召喚した獣と契約して支配しろ。それをもって妖ヒトデ城に行け。それなりに価値を見いだしてくれるはずだ。殺される可能性は低くなる」
族長は,ほかの危険な可能性についての説明は避けた。ミズキの頭が混乱しているようなので,ユズハに向かって話した。
族長「ユズハ,お前は妖ヒトデ族に出向いて,1年間,強制労働をすることになる。1年後には戻ってこれるから安心しなさい」
だが,族長は知っていた。これまで強制労働で出向いた小女が1年後に戻って来た例はない。死んだのか,それとも戻ってこれないのかまったく分からない。
しばらくして,ミズキが族長に質問した。
ミズキ「ボクの任務は理解しました。陣法を発動させることも承知です。でも,ユズハが強制労働になるのは承知出来ません。確かに,これまでも時々小女が妖ヒトデ城に送られました。でも,1年経っても戻ってきたものはいないと聞いています。それって,ユズハが死んでもいいってことですか?」
族長「おれは,力なき族長だ。妖ヒトデ城からの申し出に対して,なんら抵抗する力がない。この悪しき習慣を破りたいなら,ミズキ,お前が,族長の息子として,それを打ち破ってみなさい。知っていると思うが,力なき者は,いくら喚いてもなんの効果も発揮しない」
ミズキは,手元にある禁呪書の陣法をみた。もし,これが召喚陣法なら,,,
ミズキ「ボク,,,最強の獣を呼び出して契約する! この悪しき慣習をぶっ壊してやる!」
族長は,その可能性はほとんどないと思ったものの,ミズキの熱い気持ちが,もかしたら,奇跡的にこの苦境を変えてしまうかもしれないと感じた。
族長「その気持ち忘れるな! われわれ妖ナマコ族が妖ヒトデ城の隷従部落であるという運命を,見事打ち砕いてみせろ!」
族長は限りなくゼロに近い可能性ではあるものの,ミズキの気持ちを大事にした。
その言葉に,意を決したのか,ミズキは目を燦然と輝かせて返事した。
ミズキ「はい!! 絶対に絶対に実現させてみせます! この命に代えても!!」
・・・
その後,ミズキは陣法を発動する場所と院長が立ち会う時間を聞いた。まだ,半日ほど時間がある。でも,善は急げだ!
ミズキはユズハを連れて,さっそく大広間にあるダンジョンの地下3層に出向いた。洞窟内はところどころ光ゴケが生えていたので,最低限の光源があった。
ミズキとユズハはやや大きな広間に来た。地面は柔らかい滑石のようなもので出来ていた。爪で押しても簡単に傷がつくほどだ。
ミズキ「ユズハ,ここに陣法を描く。手伝ってくれ」
ユズハ「それはいいけど,どうやって描くの?」
ミズキ「血で描くと相場が決まっている」
ユズハ「え? 血?」
ミズキ「そうだ。この陣法は,遥か昔に描かれた陣法だ。だから,血で描けばなんとかなる」
ユズハ「でも,この陣法,めっちゃ複雑だよ? 血,足りるの?」
ミズキ「フフフ,大丈夫だよ。まず,木炭で陣法を描くんだ。次に,彫刻刀で,木炭の戦に沿って小さな溝を掘る。その後,その溝に血を流す。もし,血が足りなくなりそうだったら,お前の血を借りる」
ユズハ「・・・」
でも,ここまで来た以上,ユズハも兄を助けるしかない。
ユズハ「分かった。数滴ならいいよ」
ミズキ「・・・」
ミズキは溜息をついた。
ミズキ「まあ,血のことは後で考えよう。できるだけ小さい陣法にしよう。血の量が少なくても済む」
ユズハ「でも,大きな獣を召喚するなら,せめて直径1メートルくらいは必要だと思うよ」
ミズキはちょっと考えた。直径1メートルともなると,血が足りないかもしれない。
ミズキ「いや,直径50cmくらいでいいだろう。小さい召喚獣のほうが小回りが利いて強いかもしれんぞ」
ユズハ「・・・」
ユズハは,兄がこの期に及んで小心者だと思った。でも,それでも自分の大事な兄だ。文句をいうのは控えよう。
ユズハとミズキは,木炭で禁呪書に書かれた陣法を正確に描いた。その後,何度も間違いがないかを確認した。
ユズハ「これで見直しを3回もやったよ。もう間違いがないと思うよ」
ミズキ「よし! では,彫刻刀で彫っていく」
滑石のため,簡単に掘ることができた。2人で2時間ほどかかって完成した。
ミズキ「では血を流す」
ここで,ユズハが待ったをかけた。
ユズハ「でも,立ち会い人が院長だって,言っていたよ。まだ,数時間ほど時間があるよ。待たなくていいの?」
ミズキ「いや,どうせ,陣法に血を流すだけだ。おれは,血を使い過ぎて,意識がなくなるかもしれない。その場合,お前が召喚獣の契約者になれ。もし,院長がこの場にいたら,院長に召喚獣を奪われてしまうかもしれない。
いいか,ユズハ,お前は召喚獣と契約して,その召喚獣の支配者になれ! そして,このどうしようもない妖ナマコ族の部落から逃げてしまえ! 妖ヒトデ城なんかに行かなくていい!」
ここに来て,やっとミズキの考えが分かった。ミズキはユズハを逃がす算段を考えていた。
ユズハは少し涙眼になった。
ユズハ「お兄ちゃん,,,でも,,,わたし,どうやって召喚獣と契約したらいいの?」
ミズキ「そんなの知らん。でも,なんとか説得してユズハの言うことを聞いてもらうようにすればいい」
ミズキはリュックから500㎖ ほどの容量がある大きな注射器のような容器をユズハに持たせて,匕首で自分の腕を切った。血がボタボタと流れた。ユズハは,その容器を血の出る場所に合わせて血を回収した。ほぼ満杯になったところで,ユズハが包帯で,彼の傷口をきつく縛った。
ミズキは気分が悪くなってきた。でも,ここで気絶するわけにはいかない。
ミズキ「これで溝に血を流してくれ」
ユズハ「分かったわ」
ユズハは,できるだけ血を無駄にしないように,少量ずつ血を溝に沿って流していった。陣法がさほど大きくないので,それだけの血の量で充分に描ききることが出来た。
ユズハ「お兄ちゃん,血で描いたよ。後はどうするの?」
どうすると言われても,どうするのだろう? そんなこと,ミズキにも分からない。
ミズキ「分からん。でも,ボク,,,もう意識を失いそうだ。後のことはよろしく頼む」
ミズキはとうとう意識を失ってしまい,その場に倒れた。
ユズハ「え? お兄ちゃん? どうしたの? 気絶したの? それとも,死んでしまったの?」
ユズハは兄の胸を触った。心音が微かに動いていた。だが,その心音は徐々に弱くなっていった。
1時間ほどが経過した。ミズキの心音が完全に止まってしまった。
ユズハ「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
何度も叫んでみたものの,兄のユズハは起きなかった。
ユズハ「お兄ちゃん,,,死んでしまったのね,,,」
ユズハは涙が出てきた。自分のために兄が死んだ。それに,陣法がまだ発動しない,,,これではまったく無駄死にではないか! ユズハは,ここで騒いでも無駄だと思い直した。
ユズハは,せめて陣法を発動させたいと願った。そうでもしないと,兄の死がまったく無駄になってしまう。ユズハはどうすれば陣法が発動するか考えた。それが兄への弔いだ。ユズハは,ふと『生け贄』という言葉が浮かんだ。
ユズハ「もしかして,,,お兄ちゃんの肉体を生け贄にすれば,,,」
ユズハは最後の力を振り絞って,兄を背に乗せて,陣法の中央部分に置いた。
そして,陣法の場所から離れた。
ユズハは陣法に向かって,両手を合わせて祈った。
ユズハ「海神さま,海神さま。お兄ちゃんの肉体を捧げます。どうか,どうか,強い獣を召喚してください。わたしに忠実な獣を召喚してください。この妖ナマコ族の部落を救うことのできる獣を召喚してください」
涙を流しながら,ユズハはこの言葉を何度も繰りかえして,その場で五体投地を行った。だが,陣法はまったく反応しなかった。
ユズハ「え? どうして反応しないの? まだ,生け贄が足りないの?」
ユズハは,だんだんと息苦しくなってきた。血の臭いを吸い過ぎたのか,気分が悪くなったようだ。それに加えて,大好きな兄が目の前で死んだ。しかも,兄を生け贄にしても陣法は発動しない。
これ以上,何をすればいいのか?
ユズハは目まいがするなかで,生け贄が足りないのではないかと思った。ならば,,,自分の血を与えれば,,,それに,大好きな兄が死んだ。なんか,生きる希望もなくしてしまった。自分も兄と一緒に,,,そんな自虐的な考えが浮かんだ。
匕首を持って,自分の腕を切り裂いた。そして,その血を陣法の中央部に垂らした。
ユズハ「わたしの血もあげますので,,,どうか,,,海神さま,,,陣法を発動させて,,,ください,,,」
ユズハはそういいながら,意識を失ってその場で倒れた。血がドクドクと流れていった。そして,,,ユズハは心音を徐々に弱めていった。ユズハの心音が止まった。
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