第28話 死霊魔導師はトラブル体質?

 副団長たちを引き連れてヘルヴィのテントに移動してきた。


 人数が人数なので、魔石を外に出した方がいいだろうと、運搬要員を決め、運び出してもらう。


 樽や木箱満タンに入れられた魔石が次々と運び出されてくる。


 ゴブリンの魔石は小さく、ビー玉程度の大きさだ。


 それが両手で抱える程度の樽や木箱にいくつも副団長や隊長たちが見ている前に積み上げられていくのだ。


 一箱、一樽の時でもざわざわと空気がどよめき出したというのにそれが今の段階で十四個。


 一樽に千個入っているとして、単純計算でも万は軽く超えてる。


 そりゃ驚くよな。俺もここまで多いとは思ってなかったし。


『こんなにあったの? 多すぎじゃない?』


『シュヴェールトでの魔石も出したからですな。それでもこの森の物だけで一万五千以上ありましたぞ』


『この森のゴブリンって、多いなとは思ったけど、そんなにもいたのか……』


 運び出されてくる物がなくなり『これで最後です』と最後の木箱が積まれた時、樽と木箱の数量は、計十九。


『樽が五、木箱十四。主よ、内訳は必要か?』


『うん、お願いできるかな』


 ヘルヴィのテント前は、風さえ吹くのを忘れたのかと思えるほどの静寂。


 そんな中、俺はデバンから内訳を聞いている。


 Fランク レイス、ゴブリン、ホーンラビット、ラージラット、ワイルドボア等 一万九千以上


 Eランク アーチャー、メイジ、ホブゴブリン、オーク等 二千以上


 Dランク ヒーラー、ジェネラル、ハイオーク、オークリーダー等 千弱


 ちなみにゴブリンキングは二個。


 それとゴブリンキングは単体でAランク。群れを率いてるとSランクになるそうだ。


 というか、シュヴェールトでもそれだけの数を倒していたのか。


 それだけダンジョンの間引きしていればスタンピードの心配もしばらくはないだろう。


「これをヘルトヴァイゼ殿下とネクロウ様にセレス様たち三人で倒した……それも一晩で……」


 やっと驚いて硬直していた副団長さんたちが動き始めた。


 隊長たちはひそひそと口々に――


『あの数は騎士である俺たちが総出でも無理だ』

『偵察隊の報告書の何倍あるんだよ』

『言いたくないがあれはここに来る際持ち込んだものだろう』

 ・

 ・

 ・


 と、小声だが疑いの声も聞こえてくる。


 俺も自分でやってなければ同じように疑っていただろうし、実際この森だけの分でもないしな。


「いやしかしこの量を三人でとは、常識的に考えてあり得ないと思うのですが……」


 実質的に三人だけではない。デバンたち三人に加え、現地調達で最終的には千を超える大部隊になってたし。


「なんだ副団長、我を疑うというのか?」


 魔道具を装備し、縦にも横にも巨大になって迫力が出てるヘルヴィは、睨みを効かせながら副団長を問いただす。


「い、いえ! そ、そういうことではなくてですね、なんと言えば良いのか……」


 完全に恐縮したのか直立不動で返事を返す。


 あれは絶対背中に汗をかいているだろうな。額に脂汗が滲んでるし。


 副団長の背後にいて、口々に話をしていた隊長たちもヘルヴィの迫力で同じ直立不動になってしまった。


「ならばその目で確かめてくれば良い。潰された村と本拠地だった場所をな」


 それが一番の近道だし、俺たちの予定通りだ。


「それは、その通りです。ではヘルトヴァイゼ殿下、偵察小隊を早速森へ向かわせます」


「それが良い。それと、そこの魔石はどうしたい? 我は冒険者としてギルドで買い取りに出すか、結果報告のため王都に一度送るかと考えているが」


「それでしたら数やランクを調べ、報告書を作成いたしますので、その後でしたら殿下の采配で大丈夫だと」


「ふむ。売り払い先は一度陛下に伺うべきだろうな。わかった、その魔石は一旦副団長に預けるとしよう」


「はっ、責任をもって管理いたします」


 直立不動のままだけど、まだ何か聞きたそうな隊長たちは、副団長さんの指示で動き始めた。






 動き出した副団長たちを見送り、テントの中に戻ってきた。


「予定通りだなネクロウ」


「ティウス公爵の報告が先になった以外はね」


「しかし夜に早馬を走らせるとは、ティウスも無茶をさせるな」


「まあ、俺たちに好き勝手されたくなかったんじゃないかな」


 呼ばれたテントにいた三人の内の一人、おそらくティウス公爵家の騎士団団長だと思う。


 他の二人より明らかに装備が違ったし、副団長の装備より格段にランクの高いものに見えたからだ。


 ティウス公爵は俺たちが到着した翌日には森に入るだろうと予想していたから、危険な夜の早馬に団長を加えたはずだ。


 あの場で指揮権を得ようと動き出す前にヘルヴィの爆弾発言で、口を出すに出せなくなった感じか。


「早馬で来た三人の一人は騎士団団長だと思うしね」


「うむ、確かにあの中の一人は見覚えがあった。おそらくネクロウの予想通りだろう」


 胸の前で腕を組みうんうんと納得がいったと頷くヘルヴィは、思い出したように俺に聞いてきた。


「ネクロウ、セレスはまだ寝ているのか?」


「たぶんね、寝るの遅かったから、ゆっくり――」


『ティウスを襲った奴らの正体がわかったっすよー。王族派の連中っすね』


『ほほう、王族派と貴族派のゴタゴタであったか』


 盗賊の正体が王族派という権力争いのきな臭い情報が念話で送られてきた。


 ゴブリンの次はこれかよ。


「ん~、あ、ネクロウ。と、ヘルヴィおはよー」


 昨夜のままの格好で、なぜか布団を抱き抱えながら眠そうに目を擦るセレスがやって来た。


 ちょっと着崩れて肩が見えている。


 でも、起こしに行く手間は省けたか。


「おはようセレス。ヘルヴィ、ここでは話ができない部屋に行こう」


 挨拶を返しながらズレ落ちはだけていた肩を隠す。


「セレス、いくらこのテントに男はネクロウ以外いないとは言え、少し前は騎士がな……ん?」


 真剣な顔をヘルヴィに向けると察したようだ。


「部屋にだと? くくっ、また何かあったようだな。なら急ぐか」


 なぜか楽しそうに笑い、部屋に向かう足取りは軽やかだ。


 いや、権力争い系は楽しいものじゃない……それにヘルヴィも当事者の一人だろ……。

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