第4話 仮の世界に集ふこと

仮の世界に人々あつまりて遊ぶこと、

まことに新しき遊宴のさまなり。


遠き国に住む者ら、

同じ場所に居合はぬものどもが、

それぞれ姿かたちを飾り立て、

同じ夜の花見や、舞の会に参加するといふ。

顔も年も身分も、

みな仮の姿に包み隠し、

ただ言葉と振る舞ひのみ見ゆるばかりなれば、

出会ひのあやうくも楽しいこと、

昔の文通にも似て、いとわりなう、をかし。


しかし、春の花も、

夏の夕立も、

秋の月も、

冬の霜も、

みな「好みの強さ」「明るさ」など

手もとにて自在に変へらるると聞けば、

自然の気まぐれに振り回されつつ、

「うつくし・うとまし」と一喜一憂した昔人の感情は、

やや行き場を失ふやうに思はる。


花がいつまでも散らぬ桜並木など、

話にて聞くほどはうるわしげなれど、

「今年は見逃した」

「風が強くて残念であった」など

人の悔しがる気持ちをも含めてこそ、

のちに語る春の話の味わひは深まるものを。


散ることなき花の下では、

「また今度でよい」と、

かへって心動かぬ者も多からんと、

いと口惜し。


されど、病みたる人や、

身動きならぬ老い人など、

外へ出られぬ者らが、

仮の世界にて友と語らひ、

海辺の夕焼けや、山の端の月を見むことかなふと聞けば、

いと尊く、うれしきわざにも思ひなされる。


姿は仮にてあれど、

そこで交はされる言葉と、

胸の内に起こる感情は、

まぎれもなく真なり。

現(うつつ)の御殿と、

仮の御殿と、

どちらにて過ごす時間が「生きた時」と申すべきかは、

いよいよ人の心ひとつに委ねられたる世ぞかし。

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