第2話 自ら走る車のこと

人の手にて御することなく、

車、自ら道を知りて走り行く世の中、

見れば見ゆるほどに、あやしう、をかし。


道の端にて眺めゐれば、

内には人々ゆるやかにうちくつろぎ、

誰も手綱もたず、

ただ画面とやらを見るばかりなるに、

馬の足音もせで、車輪もきしまず、

静かに滑るがごとく行き過ぐるさま、

雲に乗りたる仙人など聞きし物語の、

案外うそならぬぞと思はる。


人の技前を競ひ、

「いかに巧みに乗りこなすか」を自慢し合ふことなくなりて、

みな同じやうに安全に運ばれ行くは、

世の秩序として、まことにありがたけれど、

腕ききの御者や、

荒馬を馴らす男の勇ましさなど、

語り草となりて失せゆくは、

少し物足りなく、あはれなり。


されど、車の中にて、

書きものしたため、歌を詠み、

窓の外の雲の色など心ゆくまで眺めつつ、

遠くまで行き来できると思へば、

牛車の狭く暗き中に押しこもりて、

簾(すだれ)の隙から人の気配を伺ひし我らには、

なかなかうらやましき世とも見ゆ。

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