風に散る花

みかづき

「君の未練を探して」 第一話

夏休みのある日のこと。

母が、見たことがないほどに深刻な表情をして口を開いた。


朱音あかねちゃんが、亡くなったって。」

「・・・え、」


突然すぎて、一瞬何を言っているのか本当に理解ができなかった。上手く、言葉が出てこない。

母の言葉を脳内で何度も何度も反芻させるが、言葉の一つ一つがつっかえて、上手く飲み込むことができない。まだ母はなにか喋っていたが、それらももう耳に入っては来なかった。


「ごめん、一人にさせて。」

「あ、一花いちか・・・」


母が何か言いかけていたが、そんなことを気にしている余裕なんて今の私にはなかった。


朱音が、死んだ。


朱音は私の幼馴染で、ずっとずっと前から大好きな人。

人懐っこくて優しくて、皆に好かれる、まるで太陽みたいに私を照らしてくれる子だった。



現実が上手く受け入れらず、頭の中がぐるぐるして吐き気がする。


ピコン、というスマホの通知の音で一気に現実へと引き戻された。朱音のお母さんからのメールの通知だ。その内容は、朱音の訃報を知らせるもの。


それを読んでも未だ、朱音は死んでなんかいないんじゃないかと、これはきっと悪い夢なんだと、思い込もうとしてしまう。


それでも現実というのは無情なもので、朱音の葬儀はすぐに執り行われた。


朱音の遺体を見て、完全に実感してしまった。朱音の死を。もう朱音は帰ってこないんだ、と。

固く閉じられた目、生気を失った顔、冷たくなってしまった体。その全てが、強烈に脳裏に焼き付いた。きっと、一生この光景を忘れられることはないのだろう。吐き気がする。


死因は溺死。溺れそうになった子を助けて、そのまま溺れてしまったらしい。優しい朱音らしいといえばそうだった。助けられた子は無事らしく、朱音の命は無駄にはならなかったんだと思うと、少しだけ心が軽くなった。


幸いなことに、遺体に目立った傷はなく綺麗な状態だった。


火葬炉の中に朱音が入っていくのをただ見つめる。泣き崩れる朱音のお母さんに、私はなんと声をかければいいかわからなかった。


火葬の終わった朱音の骨を拾う。その重さが、私の心にずしりとのしかかってきて苦しい。終わってしまったんだ、朱音との日々は。



もう一緒に学校へ行くこともできない。

どっちがアイスを奢るか、なんてくだらないことで言い合うこともできない。

勉強教えて、って泣き付かれることもない。

太陽のように明るくて眩しい笑顔も、もう見られないのだ。



家に帰ってからも食事は喉を通らず、暗い部屋で泣き続けていた。ふと窓の外を見ると、綺麗な月が夜空に輝いている。いつの間にそんなに時間が過ぎていたのだろう。とりあえず布団に潜るが、やはり眠れない。まだ涙はとめどなく溢れ、枕に大きなシミを作っていた。


気がつくと泣き疲れたのか眠ってしまっていて、雀の鳴き声と、まだ朝であるにも関わらず、地上を容赦なく照りつける夏の日差しが私に朝を知らせてくる。


このままでいるわけにもいかないので、重い体を引きずって階段を降りる。洗面所の鏡に写った私の顔は、それは酷いものだった。赤く泣き腫らした目と、うっすらとできてしまったクマ。朱音に心配されちゃうかな。


・・・いや、朱音はもういない。

その事実をまた実感して、少しだけ泣いた。


リビングに行くと、母からの置き手紙とラップをかけられた食事がテーブルの上に置いてあった。母は、仕事へ出かけたらしい。

食事を食べる気にもなれず、ぼーっとテーブルの前に立ち尽くしていた。すると突然、部屋を包んでいた静寂がチャイムの音に切り裂かれた。


正直出たくはなかったが、大事な荷物だったら申し訳ない。なんとなく、チャイムに出てみることにした。


玄関まで歩き、扉を開く。







そこには、死んだはずの朱音がいつも通りの笑顔で立っていた。








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加筆修正したため公開し直しました。


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