第12話:魔法と論理の融合
オルテガ宰相の突然の自白に、玉座の間は静まり返った。誰もが、長年王国に仕えてきた老臣の裏切りが信じられないという顔をしていた。
「宰相、あなただったのですか……! なぜ!」
リリアナが、悲痛な声で叫ぶ。
オルテガは彼女に一瞥もくれず、優馬だけを見つめていた。
「見事な推理だ。まさか、あの魔法触媒の存在まで見抜かれるとはな。エリザール、もうお前が話してやれ。私がどうやって国王を殺したのか、この天才探偵殿に説明して差し上げろ」
オルテガの言葉に、観念したエリザールは、震える声で全てを語り始めた。
「私は……宰相に脅されていたのです。私の研究を支援する見返りに、協力しなければ、一族に伝わる禁術の研究を公にする、と……」
エリザールは、オルテガの命令で、密室トリックの核心となる「遠隔硬化する魔法触媒」を提供したのだという。
犯行の手順はこうだ。まず、オルテガが国王の寝室に忍び込み、眠っている国王に致死性の毒を飲ませる。この毒は、効果が現れるまで少し時間がかかるタイプのものだった。そして、部屋を出て扉を閉めた後、あらかじめ用意しておいた細い糸で内側から閂を掛ける。ここまでは優馬の推理通りだった。
違うのは、その固定方法だ。
「宰相は、糸で閂を吊り上げた状態で、扉の隙間から液体状の魔法触媒を塗布したのです。そして、自室に戻ると……そこから、ごく微弱な魔力を、国王の寝室の方角へ送った」
その微弱な魔力が触媒に作用し、瞬時に結晶化・硬化させ、閂を完全に固定した。これにより、完璧なアリバイと密室が同時に成立したのだ。
「魔法、か……」
優馬はつぶやいた。それは、彼の科学知識だけではたどり着けない領域だった。しかし、話を聞けば、それは決して万能の力ではないことが分かる。
「その魔法触媒には、いくつか制約がある。まず、効果範囲が非常に狭く、正確な位置を把握していなければならない。そして、硬化には微量とはいえ術者の魔力が必要になる。だから、アリバイ作りのためには、犯行後すぐに自室に戻り、魔術に集中する必要があった」
エリザールの説明は、魔法という現象を、厳密なルールと制約の元に成り立つ一つの「技術」として優馬に理解させた。科学の世界における物理法則と同じように、魔法にもまた「理(ことわり)」が存在するのだ。
優馬は、エリザールに一つの質問を投げかけた。
「その触媒、証拠として残っているものは?」
「……私の研究室に。宰相の命令で証拠は全て処分したつもりでしたが……予備の分が、まだ隠してあります」
エリザールは、オルテガの非道な計画に加担してしまったことを悔い、最後の最後で優馬たちに協力する道を選んだのだ。
科学と魔法。二つの異なる世界の理が融合した瞬間だった。前代未聞のトリックの全貌は、完全に解き明かされた。
だが、まだ最大の謎が残っている。オルテガ宰相の動機だ。彼はなぜ、ここまでの壮大な計画を実行してまで、王家を根絶やしにしようとするのか。その答えは、王城のさらに深い場所に隠されていた。
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