寒夜
三角
落胆
冷たい空気にさらされ霞んだ目で、三日月を捉えながら自転車を漕ぐ。
そこで初めて、視力が悪くて一番困ることは、冬の澄み切った大気の先にあるくっきりとした月すらまともに見られなくなってしまうことなのだと理解する。
しかし一方で、ぼやけた世界が新たな美しさを生み出していることにも気づいた。
自動車がいっぱいに詰まった四車線道路の、白や赤や橙の光。低い視力と、冬の空気が私の目に映し出してくれるそれは、月と同じくらい綺麗なものだった。
夏であったらこうはいかない。暑さと湿気で淀んだ空気は、こんなに淡い色を見せてはくれない。春もだ。春の霞は冬がつくり出すような綺麗なものではない。秋は惜しい。しかし冬の美しさは、服の隙間から入ってくる冷たい風、かじかむ手、そのすべてを内包したもので。そしてそれは、決して快適な気候からは生み出せない。
顔に風が吹きつけ、ただでさえ見えない目に霞ができてさらに世界がぼやける。澄んだ空気もまた、世界と私との隔たりを曖昧にする。寒さは、科学によって甘くなった世界で、私たちに自然の厳しさを思い出させてくれる。それがまた、私たちは地球に生きている一匹の動物なのだということを実感させ、私は世界の一部になる。
それも束の間、家にたどり着き、玄関を開けた先には暖かな居間。無機質に光る電灯は、ああ、私が道路で見た光も結局はこんなもんかと落胆させた。
世界の一部は私に戻った。
寒夜 三角 @Khge-132
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