路上占い、あれこれ87【占い師は年配の人を敬う】

崔 梨遙(再)

穏やかな1423文字です。

 僕が夜のミナミで路上占いをしていた時の話です。



 目の前に、小柄な老貴婦人? が座りました。


『今日は、何を?』

『私、数年前に主人を亡くしましてね』

『はあ』

『今、同い年の彼氏がいるんです』

『はあ・・・』

『でもね、まだ1度も結ばれてないんですよ』

『はあ・・・・・・』

『相手のあそこが立たないんですよ』

『やっぱり70代のカップルでは、結ばれるのは難しいのでしょうか?』


 おいおい、何を質問してくるんだ? このお婆さん。占い師に、その状況をどうしろというのだろう? いやいや、年配の方は敬わないといけない。そうだ、ここは出来るだけ誠意的に応えよう。


『それでしたら、占いではなく、病院に行くことをオススメします。多分、お医者様が精力剤とか処方してくださると思いますので』

『病院が、そこまで親切にしてくれるでしょうか?』

『大丈夫です。同じ様な悩みを抱えたカップルが病院に行っていますので』

『わかりました。あの・・・お題は・・・?』

『今日は占っていませんので、無料ですよ』

『ありがとうございました』

『いえいえ』


 ふーっ! なんとか機嫌良く帰っていただけた。良かった、良かった。



 目の前に、老人が座った。ネルシャツに、どこで買ったのか? 謎なデニムパンツにサンダル。総白髪。背が低い。太っている。手足が短くて亀みたい。なんなのだろうか? この物体は。


『私ね、四柱推命で40歳から60歳の間に財産を手にするって言われたんですよ。でもね、私、もう70歳なんですよ。まだ財産を手にしてないんです。それで、わかったんです! 私はこれから財産を手にするんですよね?』

『はあ? 今からですか?』

『多分、私、玉の輿に乗るんですよ。お相手は実業家だと思うんですけど』


 その人が女性だということはわかってきた。だが、なんなの? この女性? だけど、年配の方は敬わないといけない。なんとか、機嫌良く帰ってもらおう。


『で、僕は何をすればいいんですか?』

『まあ、待って。私、実業家と結婚したら、経理を任されると思うんですよ。私、昔、少しの間やけど経理をやってたから。私、経理できるよね? それとも、私に合う仕事って他にあるかな?』

『今、お仕事は?』

『してへんよ』

『どのくらい、ブランクがあるんですか?』

『40代から働いてなかったからなぁ・・・20年以上かなぁ』

『資格とかは?』

『特に無いけど、実務が出来たらええやろ?』

『僕、昼間は求人広告の営業をやってますけど、それではどんな企業の面接でも落ちますよ』

『面接は受けへんやんか、実業家の夫が現れて私を抜擢するんやから』

『で、僕は何をしたらいいんですか?』

『実業家、もしくは金持ちと結婚できるか? 占ってや』

『はあ・・・・・・・・・あ、鑑定結果は出ましたけど、このお題に関しましては、もう事が終わった後ですね。人生の節目に出やすい卦なんですけど』

『アカンやん、勝手に終わらせんといてや、なんとかならへんの?』

『いやぁ、これ以上は・・・』

『まあ、5年、少なくとも3年、そこで運気が変わらないと・・・』

『長いわ! 3年後やったら、私は73歳やんか!』

『それで・・・運気が変わっても凶運なんですよね・・・』

『もうええわ、帰る!』


 あ、あのお婆ちゃん、お金を払わずに帰りやがった。まあ、ええんやけど。



 目の前に、上下スウェットの年配の男性が座った。


『今日は何を?』

『あのな・・・』

『はい』

『あのな・・・』

『はい』

『儂、飯食うたかなぁ?』

『・・・・・・』



 年配の方は敬わなければならない・・・。




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路上占い、あれこれ87【占い師は年配の人を敬う】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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