第5話 カササギの橋

結局、どんなキレイゴトを並べても金がないと「ワレと他者及びその類するものとの精神および肉体の関係の深化の結果」にある(ような気がする)「ほんとうの幸せ」を追い求める前に、そんな貧乏な人とはツガイになれませんと、なることが目に見えていると、ワレ思う故にワレありなワケで、やはり「ほんとうの幸せ」探求に至るまでの道のりにあっても、生まれた家の不公平感はどうあがいてもいなめない。ちくしょう(ヤケクソ)


淡いまどろみの中でそんな思考を巡らせている俺を乗せて、新千歳空港行き快速エアーポートは静かに星の間をすべっていく。もう一度窓から外を見ると前方にまっ黒な松や楢の林がみえたと思ったらあっという間に後ろへ過ぎ去り、それを越えると、にわかにがらんと空がひらけて、天の川がきらきらと南から北へわたっているのが見えた。


ふいに「まあ、たくさんのカラス」と隣の席の男女ツガイの女が言った。ツガイ側の車窓から線路と平行に川が流れているのが見え、その川原の青白い街灯の上に、黒い鳥がたくさん列になってとまって、川に反射した星の光を浴びていた。


隣の席の男女ツガイの男のほうが「カラスじゃない。みんなカササギだ。おなかのところが白くて、羽根が星の光に反射して七色に見える」と言い、ツガイの女はバツが悪いのか顔を赤くしてだまって俯いた。


カササギと聞いてまた一つ脳のシナプス細胞が繋がり、古い伝説を思い出す。たしかベガとアルタイルが逢える年に一度の星合いの日、天の川に橋を架ける鳥だったか。いや、そもそもカササギ自身が橋になるんだったか。七夕の日にしか逢えないという不利な条件はあるが、カササギの橋を渡ることにより、織姫と彦星も最小単位の公式には当てはまっているから「ほんとうの幸せ」の探求資格はあるのだろうなと淡いまどろみの中で思う。


ほどなく、車窓の外でひときわ南の空がひらけ、十字架の形に四つの星がきらめくのが見えた。次の駅が近いのかもしれない。

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