神竜様の許嫁!

月白奏

プロローグ

 一人の少女が、ひどく慌てた様子で階段を駆け下りていく。

 あまりにも急いでいたせいだろう、彼女は途中で足を踏み外した。


「きゃあっ!?」


 華奢な体が宙に投げ出され、痛みを覚悟した少女は目をつぶる。

 だが、彼女を襲った衝撃は想像以上に小さいものだった。


「……あれ?」


 少女はおそるおそる目を開ける。


 何者かが、彼女の体を受け止めてくれていた。相手の胸に顔をうずめているせいでよく見えないが、体に当たるごつごつとした感触から推測するに、鎧を着ているようだ。


「す、すみません――」


 顔を上げた少女は言葉を失う。

 自分を助けてくれた相手の姿が、あまりにも格好よく見えたのだ。


 それは、凛々しい雰囲気の騎士だった。


 年齢は少女よりもわずかに年上で、おそらく十八歳くらい。

 癖のない黒髪ときりっとした眉、鋭い眼光を放つ切れ長の瞳が印象的だ。

 しかし、何よりも少女の目を引いたのは、彼の左目を覆う眼帯だった。おそらく敵との戦闘で負傷したのだろう。いかにも勇猛果敢、といった雰囲気である。


「……」


 少女は思わず彼に見とれてしまう。

 騎士もまた、少女の顔を見た瞬間わずかに眉を動かした。その頬がわずかに赤く染まっている。


 しばらくの間、二人は時を忘れたかのように見つめ合っていた。


 これはまるでおとぎ話のような少年少女の出会い。完璧な恋の始まり。

 ただ一つ欠点を挙げるとすれば――少女には、婚約者がいた。

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