5話「僕は誰かを救えない」
「旭様……!聞いていたんですか」
「まあ、大体な」
ずっとそこで聞いていたのか、旭が物陰から姿を現した。
「………そうですか。やはり、駄目ですね。貴方みたいに真っ直ぐな言葉で救うなんて、僕には向いていなかった」
どこか弱々しい笑みを浮かべ、自虐的になる夜道に旭は力強い笑みを浮かべる。
「いや。お前の言葉はきっと届いたぜ」
「旭様……?」
「イラストを返してもらっただけでも助かった。あとは私に任せておけ」
そう言うと、逃げ出した落合を追うため走り出した。
◆◇◆
「おいっ!待てーーーー!!」
「っ!?た、探偵……なによ、放っておいてよ!イラストは返したんだからいいでしょ!」
全力ダッシュで追いかけっこを繰り広げる、旭と落合。
「そうだ!だからこれは依頼じゃない!ただのお節介だ!」
「要らないわよ!迷惑よ!」
「いいか、聞け!おまえは友達のためにここまで悩んで傷ついてる。でもその想いを抱えて仕舞い込んだままじゃ、なにも解決しないんだよ!ずっと苦しいままだ!」
「〜〜!!だってだって、この嫉妬を抱えたまま、あいつと付き合うなんて…きっと、また傷つけてしまうわよ!」
階段を駆け下りた落合の足が僅かに緩んだ。
捕まえるなら今しかないーー旭は階段から一気に飛び降りた。
「それもひっくるめて、お前の歩んできた道だろ!」
「いでっ!!」と床に転がりつつ、一気に落合との距離を縮める。
そして、抱きしめるように拘束した。
観念したのか、落合はぐすぐすと鼻を鳴らしながら、俯く。
「じゃあ私はどうすればいいのよ……?才能に嫉妬して、盗んで、勝手に傷ついて……。友達に酷いことしたのに……、私のイラストにはもう、何の価値もないのに」
「そんなことないっ!!!!!」
驚いて振り返ると、そこには萌子が息を切らして立っていた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ………」
「も、萌子っ!?な、なん………」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ごほごほっ!つ、疲れた……」
「おまえ体力無いな!?」
思わずツッコむ旭。
萌子は決意を固めたように顔を上げた。
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