3話「イラスト紛失事件」

「コンテストに応募予定のイラストが無くなってしまったんです」


そう言うと萌子は鞄からポスターを取り出す。

そこには『ジャンルは不問!とにかくお前らの萌えを見せてくれッッッ!!』と書かれていた。


「私の萌え魂を詰め込んだ、渾身の作品に出来上がったのに……もうすぐ応募締め切りが来ると言うのに無くしてしまって……」

「萌え魂とは……そ、そうか。ちなみにどんなイラストか教えてくれるか?探す手掛かりになるからな」


と、至極真っ当なことを言ったのだがーー


「旭さんのエッチ!!そ、そんなこと聞かないでくださいよっ!」

「おまえはエッチなイラストを描いたのか……?」

「そ、そんなことないですけど!ただ、端々に私のフェチズムが漏れ出している絵なので……」


顔を赤らめる萌子に、「そ、そうか……」と深くは聞かない旭だった。


「私、このコンテストではどうしても優勝したいんです。負けたくない子がいて……」

「負けたくない子?」

「はい。一緒にイラストを描いている親友なんですけど……まぁ、最近はちょっと疎遠なんですけどね」

「………!」

「そうか。……ともかく、沼田の依頼は無くしたイラストを探すことだな。夜道、行くぞ」


夜道はなにか考え込んでいたが、旭に話しかけられ、席を立つ。


「はい。旭様、今日も徹底的にサポート致します」


◆◇◆


調査を始めて1時間、イラストが見つかることは無かった。


「見つからないな……手掛かりが無いに等しいからか……」

「どうしましょう?締め切りは明日なのに……」


旭が眉を寄せ、萌子が涙目になる。

その後ろでは夜道が考えるような表情をしていた。


「旭様。少しお手洗いに行ってきますね。調査を続けていてください」

「…ん?ああ、わかった」


夜道は静かにその場を離れる。

旭たちが見えなくなった瞬間、早歩きで階段を降りていく。

そして、物陰にいた"少女"に話しかけた。


「今、お話いいですか?落合優里さん」


びくりと三つ編みの少女は驚いたように夜道を見る。


「べ、別にいいけど……なによ?」


挙動不審な姿に、夜道は確信した。


「落合さん、貴方、確か沼田さんの親友ですよね」

「は?……ま、まぁ……そう、ね。てか、なんで知ってるの?」

「同じクラスですから。貴方が沼田さんと喋っているところを見かけてました。あと、その鞄に付いているキーホルダー、沼田さんのものと一緒ですし」

「っ……あのさ、さっきからなにが言いたいの?」


夜道は真っ直ぐに落合を見て、こう言った。


「沼田さんのイラストを盗んだのは貴方ですよね?」


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