第23話
あの頃のわたくしは、他の貴族たちと同じように、後方の安全な拠点で聖女としての経験を積んでいた。
少し違うのは、わたくしが次代の聖女としてとびぬけた才能を持っていたこと、くらい。
周りの子女からはよく嫉妬の対象にされたものですわね。
そんなわたくしは、たまたま研修で、この前線都市に立ち寄ることになった。
……危険な魔瘴領域に近いこの町に訪れることはわたくしとしては少し嫌だった。
だって、いつ何が起こるか分からなかったから。
一日でも早く、安全な王都に帰りたかった。
そんな時、最悪なことに……魔瘴に飲まれた村の救助活動に、当時の聖女様のお付きとして同行させられたのがわたくしだった。
初めて目の当たりにする、命のやり取りが行われる最前線。
わたくしはただ、恐怖に震えていることしかできなかった。
絶対、聖女の跡を引き継ぐことだけはやめよう。あんなのは馬鹿がやる仕事だ、おうち帰りたい……本気で考えていましたわ。
「ですが……わたくしはあなたと出会って……考えが変わってしまいましたのよ?」
フェインの頬を撫で、伝う涙をぬぐう。
わたくしとそう年齢も変わらないように見えた彼……事実、わたくしと同い年だった彼は、王都でもたびたび名前の挙がる人で、貴族の子女たちの間でもちょっとした有名人だった。
わたくしの家に置かれている魔導映写盤でも彼の戦いを見たことがありましたわ。
「あっ、有名人。おまけに映写盤で見るよりもいい男」。
あとで家族や友人に自慢しよう、みたいなのんきな考えくらいしか浮かばなかった。
作戦実行中。結界が張られた村へと到着し、わたくしたちは避難誘導を行うために動いていった。
作戦自体は順調にうまくいっていたのだけど、魔物の群れが村へと迫ってきてしまいましたわ。
……あのときは本当に絶望しましたわね。わたくしの命だけはどうかご勘弁を、と本気で神に祈っていましたわ。
わたくしが絶望していたとき、フェインが作戦を提示した。
「思えば、あの頃からあなたは……無茶しすぎでしたわね……」
『俺が魔物たちを引き付けるからその間に前線都市に向かってくれ』と。
それから……しばらく先代聖女様とフェインが口論していたのは、今もよく覚えていますわね。
『あなたまたそんな無茶なことを!』
『あなたが気にする必要はない』
『今の聖女として、あなたを死なせない役目があるのです! いいですか!? あなたいつもいつも――』
『……』
『聞いていますか!?』
『ああ。聞いている。ただ、考えは変わらない。俺にとって、今が最高のタイミングなんだ。皆を生かすためにも、俺に戦わせてくれ』
『……っ。……本当に、本当に……いつもいつもあなたは……っ。……必ず、生きて戻ってきなさいよ!?』
『ああ、分かっている』
そんな話をしたあと、わたくしたちは二手に分かれて行動を開始。
わたくしたちは同行していた冒険者とともに少数の魔物を討伐しながら無事、前線都市へと避難民の誘導に成功した。
そしてフェインも……もちろん問題なく帰還。なんなら、無傷で。
ば、化け物ですわ……あの数の魔物相手に、生き残って、むしろ「物足りなかった」と語ったフェインに、わたくしは本気で驚いた。
すべての作戦が終わった後。
祝賀会が開かれ、わたくしは偶然フェインと話をする機会があり、そこでわたくしの将来設計が壊されてしまった。
『どうして、あなたは……そこまでして戦うのですか?』
『俺は英雄になりたい。皆の希望になりたいんだ』
『……皆の、希望?』
『……この世界を、救うために』
まっすぐにこちらを見る目は、とても鋭く、決意に満ちていた。
……その瞬間、わたくしは、雷に打たれたかのように動けなくなってしまった。
キャリアのためでも、名誉のためでもなく、本気で世界を救うと口にした彼が、眩しくて、眩しくて……。
わたくしは……胸の高鳴りが押さえられなくなり――。
「思えば、あの時わたくしはあなたのことが……好きになってしまいましたのよ?」
それから、わたくしは一心不乱に聖女としての知識と技術を磨き、自ら望んで先代の聖女様の跡を引き継ぎ、この前線都市へと来ていた。
……フェインの隣に並びたくて。
――一緒にいたい、支えたいと本気で思った。
でも、彼との距離はずっと遠くて。
近づけたと思っても、すぐにまた彼は離れていってしまう。
いったい、フェインはわたくしの気持ちにどれほど気づいているのでしょうか。
わたくしが、本気であなたのことが好きなことを。
「それとなくアピールしても、周りを理由にアピールしてみても……いっつもいつも、理解していないような返事ばかりで……本当にもう、という感じですわね」
きっと、彼は……どこまでも世界のことしか考えていないのでしょう?
「……本当に、わたくしのすべての計画を狂わせておいて……なんで、今ものんきに寝ていますの、あなたは」
わたくしは、フェインをじっと見て唇を噛んだ。
……もっと、もっと。
昔からちゃんとわたくしが死ぬ気で必死に聖女として勉強していたら、きっと今頃フェインはもう元気になっていたはず。
あの時のことを思いだすと、後悔がいくつも浮かんで……浮かんで……。
血相を変えて治療室に駆け込んできた冒険者。
アストラさんたちの危機的状況。
そして、浄化がまったく終わっていないにも関わらず、即座に「俺が出る」と言い切った、フェイン。
黒曜の騎士との戦いの前後を思い出すたび、わたくしは自分の力のなさに涙がこぼれてしまう。
……わたくしの才能がもっとあれば。
浄化もきっとうまくいって、もっと安全に彼は戦えていたはずで。
そもそも、その前の段階の話なのだ。
の浄化がきちんとしていれば、アストラさんたちだけで遠征に行かず、フェインが同行できたはずで――。
全部、全部……わたくしの才能がないのが悪くて……っ。
後悔が、胸を掻きむしる。
あの時の……今まで無駄にしてきた時間の全てに頭を抱え、髪をかきむしる。
わたくしが、わたくしが……っ。
聖女としてもっと優秀だったら……っ!
せめてフェインをあの時、無理やり止めていたら……っ!
で、でも……。
もし、彼を行かせなかったら?
アストラさんたちが、黒曜の騎士に殺されていた?
違う、違いますわ……。
アストラさんたちに死んでほしいわけじゃなくて……!
「……フェイン……フェイン……っ」
わたくしは、小さく嗚咽をもらしながら……眠っている彼にどうすればよかったのか。
問いかけることしかできなかった。
―――――――――――
《あとがき》
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