第24話

 騎士団の訓練場。

 オレはいつものように部下たちの訓練のため、一人剣を振り続けていた。

 汗を流し、倒れている情けない騎士たちに、オレは小さく息を吐いた。


「……貴様ら。もう終わりか?」

「あ、アルトリス団長……さ、さすがにもう……」

「朝からずっと戦い続けていて……本当にもう、大変で……」


 ……ちっ。

 オレは彼らを一瞥してから内心で舌打ちする。

 こいつらの根性はこの程度か。


 朝から代わる代わるで騎士たちと戦い続けていたオレだが、まだ誰もオレに人たちも浴びせることなどなかった。

 これで本当に、これから先この町を守れるというのか……?

 情けない部下たちだ。


 ……ここにいる騎士たちのほとんどが中途半端な覚悟でこの前線都市に来ているのは知っているが、ここまでとはな。

 少し給料がいいから、とか将来の出世街道のためとか。


 そういうしょうもない未来のことしか考えていない連中だ。

 根性が足らん。根性が……っ。

 正直言ってもの足りないのだ。

 たまにフェインと訓練を行うことがあるが、奴はこんなものではなかった。

 そんな中、よろよろと立ち上がった一人の騎士の目を見る。彼の目は、まだ死んでいない。

 他の軟弱者たちと比べてみても、どこか光があった。


「おまえは? ここで、終わりか?」


 先日配属されたばかりの若い騎士に問いかける。

 年齢はまだ15歳。平民出身の者だそうだ。騎士団はほとんどが貴族の次男、三男に所属するものばかりなので、珍しいといえば珍しい。

 平民ということで苦労することもあるそうだが、オレは正直言って身分に関して気にしたことはない。


 平等に、全員に厳しく接してやるつもりだ。

 貴族の身分だって関係なくな。

 戦場で、そんなもの気にしてくれる人間も魔物もいないんだからな。

 そんな彼は、呼吸を乱しながらも剣を構え、こちらを見てくる。


「……ま、まだ……やりますっ!」


 そう言って、彼は剣を構え、こちらへと迫ってきた。

 ……根性だけは一丁前だ。まだ、技術は追いついていなかったが。

 でもまあ、根性だけでもあるだけマシか。

 彼の剣を捌きながら、オレは片手で背中を突き飛ばす。

 それで体制を崩した彼が、情けない声をあげながら崩れる。


「わ、わあ!」

「遅い! 踏み込みが甘い! それで魔物の鱗が貫けると思っているのか!」

「は、はい……っ。つ、次こそは……!」


 そういって彼が立ち上がろうとしたが、ふらりと傾く。

 ……体力の限界のようだな。


「まずは基礎から叩き直せ。走りこんでこい」

「……は、はいぃぃ……っ」


 まったく。

 返事をした彼はそのままその場で倒れていた。

 ……まあ、しばらく放っておけば復活するだろう。

 周囲へぐるっと視線を向けるが、皆苦笑いとともにさらに挑んでくる者はいなかあった。


 ……訓練は終わりか。

 本当に、皆やる気がない。

 まだ冒険者たちの方が、一攫千金目当てとはいえもう少しやる気に満ちた奴らがいるってものだ。

 

 まあ、その冒険者たちの空気も最近はたるんでいるのだが。

 フェインが倒れてからもう二週間近くが経っている。

 この前線都市の空気が緩んでいるのは、街中を巡回していればよくわかる。


 『獄炎竜』と『黒曜の騎士』。

 長らくこの前線都市の脅威とされてきた脅威度Sの魔物が二体、立て続けに討伐された。

 確かにそれは喜ばしいことだ。


 だが、それだけで、街の連中も、そして王都の連中も、すべてが終わったかのように浮かれている。

 愚か者どもめが。

 連中は何も分かっていない。


 我らの勝利が何をもって勝利とするのか。

 そんなものは決まり切っている。

 すべての魔素を払い、すべての大地を取り戻すことだ。


 つまり今は、人類が、ようやく失い続けた大地を取り戻すきっかけを掴んだだけだ。

 何も……喜んで浮かれていい場面ではない。

 むしろ、新しい脅威度Sの魔物が現れるまでに、どれだけ人類が進行できるかが重要なのだ。


 それに、オレや……フェインがいつまで戦い続けられると思っている?

 オレたちだって、人間だ。いつまでも最前線に立ち続けられるわけがない。……まあ、あの化け物であるフェインなら老いてもいるかもしれないが。


 だとしても、限界は必ずくる。

 それまでに、オレたちに……いや、フェインに並ぶだけの次代の英雄を育て上げなければ、人類の歩みはそこで止まる。

 魔物どもにも賢い個体がいる。

 奴らの中にも急成長を果たすのだっているんだ。


 だというのに、どいつもこいつも……。

 思い出してきたら、色々腹立たしくなってきたぞ……!

 のんきにそこらで休んでいる連中をたたき起こして、また訓練でもつけてやろうか。


 そんなことを考えていると、オレの側近が近づいてきた。

 オレの前で足を止めた彼は、一礼とともに控えめに声をかけてくる。


「団長。お時間です……面会の方が」


 オレが苛立っているのを察したのだろう。

 口調と雰囲気が申し訳なさを含んでいる。

 ……別に、彼に八つ当たりするつもりはない。オレは一度深呼吸をしてから、席を立った。


「……ああ。そういえば、そんな予定が入っていたな」


 彼とともに応接室へと向かう。

 ……はー、面倒だ。

 応接室には、この騎士団には似つかわしくない豪華な衣装に身を包んだ貴族たちの姿があった。


 確か、今日の面会の予定は王都宮廷の防衛局に関わる役人だったか。

 一応騎士団の運営にも関わる人たちであるが、最前線のことなど何も知らん連中だ。


 そんな彼らにあれやこれやの命令を出されたときには、いつも苛立っている。

 ソファに座っていた彼らは、オレの姿を認めるとゆっくりと立ち上がった。


「おお、アルトリス団長! お待ちしておりましたぞ。いやはや、ご壮健そうで何よりだ」


 いちいちそんな挨拶をしなくてもいいだろうに。

 心にもないくせに、おかげでこちらとしても面倒な定型文を返す必要がでる。


「この度は、王都からの長旅、お疲れ様です。それで、何のご用事でしょうか?」


 こっちはさっさと本題に入りたいのだ。

 オレが単刀直入に切り出すと、男はわざとらしく咳払いをした。


「うむ。……単刀直入に言おう。アルトリス君、そろそろ王都に戻ってこないかね?」

「……は?」


 こいつは、今、何と言った?




―――――――――――

《あとがき》


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