私が選んだ第2回カクヨムU-24杯作品の感想

snowdrop

長い総評

◆はじめに

 第二回カクヨムU-24杯の審査協力をさせていただきましたsnowdropです。

 参加してくださった皆さま、本当にお疲れさまでした。たくさんの素晴らしい作品をご応募いただき、心より感謝申し上げます。

 読み応えある、質の高いエンタメ作品を厳選しました。選考は感想とは異なり、構成力やキャラクターの奥行き、多面的な要素を慎重に比較しながら進めました。非常に悩ましくも充実した時間となりました。



◆選考の進め方

 カクヨムU-24杯には三人の選考委員がおり、各委員が独自に受賞作を決めています。したがって、ここに記した受賞作は私個人の選考によるもので、他の委員の選考結果や受賞作とは異なります。​

 選考について、運営とのやり取りはお話しできません。ご容赦ください。

 お伝えできる範囲としては、私の知る選考の心得をふまえて、運営と今回の基準をすり合わせたうえで、一次から最終まで一人で選考を進めました。

 他の選考委員の方もそれぞれの得意分野と基準で作品をお選びになったと思いますが、その基準については知りません。​

 私はカクヨム甲子園の延長線上で、できるだけ多くの人に届きそうな作品を選ぼうと考えていました。ただ、ジャンルを問わず出来の良い作品なら、積極的に選びたいとも思っていました。

 とはいえ私は、ライトノベルとホラーには少し苦手意識があります。三人の選考者で良作を漏らさず拾い上げることを重視し、その分野は信頼してお二方に託しました。振り返ってみると、他の選考委員が選ばれていた受賞作はいずれも、一次選考のときに私も候補に挙げていました。まろでぃさんが『鬼笑』を選んでくださったことに安堵しました。

 一次選考では、応募総数二百五十三作品のうち七十作品余りを残し、二次選考では慎重に二十三作に絞り込みました。最終審査では十一作品を相対的に比較して順位を決定しています。当初は、一次選考で応募総数の一割ほどを選ぶつもりでしたが、予想以上に出来の良い作品が多く、つい多くなってしまいました。



◆選考基準の考え方

 一般論ですと、それぞれの小説賞にはレーベルのカラーがあります。ミステリーを募集しているところでも、本格派だけとか、何でもOKですよとか、求めているものがそれぞれ異なります。

 今回のU-24杯ですと、応募要項に『二十四歳以下を対象に、二万文字以上のエンタメ小説』とあり、「青春」「SF」「ホラー」「ミステリー」「歴史」「恋愛恋愛(現代舞台)」「スポーツ」のいずれかに限定し、「異世界ファンタジー」「現代ファンタジー」の作品は対象外とされていました。ここから読み取れるのは、ファンタジー要素を除いたエンタメを想定している点です。

 もっとも、幽霊やお化け、薬で子供になる名探偵、人間のようなロボットなど、線引きの難しい要素も多くあります。「とりあえず出してみよう」と思った方もいたかもしれません。

 また、U-24杯はカクヨム甲子園とは違い、子供から大人まで参加しますので、飲酒喫煙暴力エログロ表現などの扱いも迷うポイントでした。そこで、選ぶ側として迷わないよう、あらかじめ基準を明確にし、自分なりに整理しました。

 作品づくりには、時間と労力と費用がかかることを知っています。良い作品を漏らさず拾い上げるためにも、基準を明確にしておくべきだと感じました。応募要項から読み取れるのは、ファンタジーはダメだけど求めているのはエンタメである”ということ。つまり、地に足のついたエンタメをどう描くかが、今回の勝負どころだったと思います。

 ファンタジー要素を抑える分、質を高めなければいけません。ただし、質を上げすぎれば純文学になってしまう。その中間を探りながら、両立のバランスを取るのが、作者の腕の見せどころだったでしょう。



◆エンタメと純文学の違い

 毎年のごとくカクヨム甲子園の作品を読んで感想を書いてきた私としては、例年どおりならば、エンタメの文体で純文学のように深く心情を描く作品を選んでいけばいいはず。ですが、今年は傾向が違ったのです。奇しくも、今年のカクヨム甲子園2025の中間選考を通過した作品の多くが、純文学っぽい作品でした。

 純文学は「ストーリーの線(物語の展開)」よりも「点(一場面の描写、感情の深さ)」を重視し、文章自体の芸術性や心情表現に大きな比重が置かれています。詩的で象徴的な言葉遣いや内面世界、心理の深掘りを重視し、人生や死、存在意義など普遍的哲学的テーマの追求が多くみられます。複雑かつ抽象的な文章構成で読者の思索を促すのも特徴です。型どおり(起承転結、序破急など)書く必要はなく、自由。起転転転転結でもいいし、起承承起承結でもいい。純文学がわかりにくいと言われる所以ですが、型どおりのエンタメ作品に飽きた人にとっては、面白く作品を味わえるのも純文学の良さです。

 エンタメ作品は「ストーリーの線(物語の展開)」を重視し、読者が楽しむことを主眼に置くため、展開の面白さやわかりやすさを中心に評価されます。ストーリー展開のスピード感や謎解き、キャラクターの魅力による没入感を重視し、親しみやすさと感情移入のしやすさが強く求められます。起承転結、序破急、三幕八場の構成できちんと書かれていることが多く、話の流れを想像しやすく追っていきやすい。ミステリー、恋愛、冒険など多彩なジャンルが含まれ、意外な展開にハラハラ・ドキドキし、結末は満足感のあるものが多く見られるのもエンタメの良さです。

 一般文芸の純文学は、以前から想像力やリサーチでリアリティーや時代性を高められるものでしたが、現在はSFやファンタジーなどエンタメ要素のあるものも増えています。エンタメと純文学の境界は曖昧で、基本の型が純文学寄りならエンタメ要素があっても純文学と見なされやすく、逆にエンタメ型が基調なら純文学的手法が多くても質の高いエンタメと評価される傾向があります。

 カクヨム甲子園2025の場合、従来どおりのエンタメ型に純文学の心情書きがされている作品もありますが、純文学の型で書かれた作品も目につきました。

 U-24杯はエンタメ作品を募集しているけれども、純文学寄りも選んで良いのかが一番の悩みどころでした。今年のカクヨム甲子園の中間選考を通過した作品が純文学寄りだったのは、選考委員の影響からなのが伺えます。

 カクヨム甲子園作品を読んで感想を書いてきた私を選考委員に選んだということは、カクヨム甲子園の延長で選んで良いはず。であるならば、今年の傾向も取り入れてもいいと判断し、エンタメ募集の賞に純文学が来ることはないだろうけれども、もし応募されていて出来のいいものがあれば、検討しようと思いました。

 また、ラノベを選ばない選択肢は設けませんでした。面白ければ選ぼうと思っていました。



◆感想と選考の違い

 感想を書くときは作者側に立ち、ここをこうしたらもっと良くなるのではないかという視点を心がけています。ですが、選考は編集側に立って篩いにかけなくてはいけません。真逆なので、頭の切り替えを常に心がけていました。

 他の小説賞に出しながら、U-24杯にも応募されている作品がいくつかみられました。応募されたどの作品もレベルが高いように受け取れたので、気を引き締めなくてはいけないと思いました。

 参加された皆さんも御存知のとおり、U-24杯は二万文字以上の作品で、完結済みでなくてもいいところが一般的な小説賞と異なる点です。

 連載中の作品は途中までしか読めないのです。作品の長さもバラバラですし、手分けして選考していくのではなく一人で選考していかなくてはならない。限られた時間内で数をこなし、質の高いものを選んでいく。十月末に感想を書き終え、十一月からは集中して取り組んでいきました。

 当初、十一月中に二次選考を終え、最終選考は十二月に行う予定を組んでいました。二次まで進めば比較も順位付けもしやすくなり、最終選考も楽にできると考えたからです。一次選考をしながら二次以降にも進める作品なのかも見ていましたので、予想以上に早く進みました。

 二次選考で二十三作品選びました。数だけみると、ようやく一次選考が終わった感じです。最終に残せるかどうかも意識しながらの二次でしたので、最終候補の選別には、さほど時間はかかりませんでした。



◆最終選考の経緯

 募集期間中の十一月上旬時点で、出来のいい作品として候補に挙げていたのは以下の作品でした。(以下、敬称略)


・キャッチライト(綿貫ソウ)

・ラブレター(荒木明)旧:家猫のノラ

・紺碧の断罪(見咲影弥)

・不完全な僕ら(kanimaru。)

・マオグイの家(白洲尚哉)

・会津稔を殺したのは私です(天野純一)

・夏が終わっていきますね(しがない)

・白息の四月(緑山陽咲)


 内容上の事情や既掲載の関係などで数作品を除外しました。

『白息の四月』は内容上の事情で取り下げ、『マオグイの家』は既に機関誌に掲載されているのを確認して選外。『キャッチライト』はカテゴリエラー、『夏が終わっていきますね』は取り下げられていて外れました。また『会津稔を殺したのは私です』は独自の完成度を認めつつも慎重に扱いました。

 さらに出来の良い作品を選考し、候補に選びました。


・きみの神話を見ていた(千桐加蓮)

・先輩、雪は融けました。火傷の痕が綺麗です。(冷田かるぼ)

・転入生は死神でした。(月瀬ゆい)

・ニセモノの愛はAI《アイ》ではない(色葉充音)


 募集後、除外対象となった『キャッチライト』は作品の出来が良く惜しいと思い、他の作品とともに運営に確認を取りました。結果、問題なしとされ、『会津稔を殺したのは私です』は他の方が選ばれているので被らないように聞きました。そうでなければ、私としても検討に入れたかったのですが、今回は除外し、候補として残すにとどめました。

 以上の理由から、私は最終選考をやり直すことにしました。


・キャッチライト(綿貫ソウ)

・ラブレター(荒木明)旧:家猫のノラ

・紺碧の断罪(見咲影弥)

・不完全な僕ら(kanimaru。)

・マオグイの家(白洲尚哉)

・会津稔を殺したのは私です(天野純一)

・白息の四月(緑山陽咲)

・きみの神話を見ていた(千桐加蓮)

・先輩、雪は融けました。火傷の痕が綺麗です。(冷田かるぼ)

・転入生は死神でした。(月瀬ゆい)

・ニセモノの愛はAI《アイ》ではない(色葉充音)


 作品の巡り合わせは、まさに運です。

 最終候補十一作品から選考し直した結果、受賞作三作、最終候補二作、計五作を選びました。


・白息の四月(緑山陽咲)

・マオグイの家(白洲尚哉)

・キャッチライト(綿貫ソウ)

・ラブレター(荒木明)旧:家猫のノラ

・紺碧の断罪(見咲影弥)


 カクヨム甲子園と同様、カクヨムU-24杯は書籍化につながる賞ではありませんが、優れた作品には多くの読者に読まれる機会が訪れることを願っています。「いい作品を書かれる人は、必ずどこかで世に出る」という考えがあります。才能ある書き手が、これからも創作を続けていけるよう応援しています。


『夏の幻影』(雪解わかば)の作品は、カクヨム甲子園に参加した高校生視点で、作品を読んでは感想を書く妖精さんのお話でした。作品の出来で選考をしているのだから優遇できない。かといって、カクヨム甲子園の延長のように作品を選んでいる私としては無視もできず、運営に確認をとり、総評に書かせてもらいました。

 賞金はありませんが、ささやかながら個人的に特別賞をお贈りします。

 


◆感想について

 Yahoo知恵袋にて、受賞した作品を別の賞に応募されたが芳しい結果に至らなかった旨が書かれていたものを目にしたことがあります。

 応募先がどのような作品を求めているのかによって基準は変わってきますし、その作品を私は読んでいないのでなんとも言えませんが、今回選考した者としていえることがあるとすれば、受賞作であっても改善すべき点は多々あります。

 作品の出来がいいことはもちろん、心が震えた作品を選び、その中で比較検討して順位付け、三人いる選考者と運営側との兼ね合いで受賞作が選ばれるわけです。運営側の判断は私にはわかりかねますが、少なくとも選考者が選んだ作品が被らないよう配慮はされるでしょう。でも、選考者の見るべきところが異なっていますので、重なることはまずありません。

 受賞作はカクヨムU-24杯の判断基準の結果です。他の賞に出すなら、募集基準も異なるはずです。そのまま出して受賞できるかは、わかりません。

 作品の日の目を見させたい、と願う作者の思いはわかります。

 そこで、一助になればと、ちょっとした感想を書きました。応募作全部ではありません。私が選んだ二次以降の作品に関して、多少の差をつけさせてもらいました。

 何かしら役立ちましたら幸いです。



◆さいごに

 知識で唸らせ、個性豊かな人物で魅せ、緻密な構成で感心させる。この三つの要素を備え、読み手を強く引き込む作品を選びました。

 惜しくも受賞を逃した作品にも、印象的なものが多くありました。どうか今回の結果を次のステップとして、新たな物語を紡ぎ続けてください。

 作品全体に共通していえることは、出来が良かったことと同時に、重複や水増し表現、指示代名詞などの多用がみられたことです。

「書き終えた後の推敲のすすめ」を書きまとめておきました。

https://kakuyomu.jp/works/822139840327386350/episodes/822139840328113933

 おまけに、「たいした事ではないですが、お話づくりに役立ちそうなこと」も用意してます。

https://kakuyomu.jp/works/16817330654035487811

 今後の創作活動にお役立ていただけたら幸いです。

 皆さまの今後のご活躍を心より期待しております。

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