第25話 手続

「ユーリア。ここに来い」


 長の家に居を移して翌々日。わたしは綺麗に洗われ、新しい服を与えられた。

 その後、長の執務室に呼び出されて、書類を差し出された。


「これがユーリアが儂の養女になる書類じゃ。……ユーリア。幼い君に話すことじゃないが、君の実父のように、儂との関係を勘違いする輩も多くいる。儂はそれを訂正するつもりはない。……膿を出すのに便利じゃからな。それに、儂が養女として君を守れるのは、君が自分の才を示しているときだけじゃ。……君にはその覚悟があるのかのぅ?」


 さすが権力者。見据える眼光は強い。わたしは、こくりと唾を飲んで頷いた。……あと、想像よりも仕事が早い。


「……あります。お兄様のように学院で学びたい。自分の力で生きていきたい。この気持ちは決して変わらない。そんな覚悟があります。そのためなら、他人に何と言われようと、わたしには関係ありません」


 わたしがそう頷くと、ニヤリと笑みを深めた長がペンを取った。


「では、これから養女として、儂の娘として、全力投球で頼むのぅ。期待しておるぞ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。……長、わたしの新しい服や乳母の服までご準備いただき、ありがとうございます」


 わたしが頭を下げると、わたしの服を上から下まで見た長は小さく吹き出した。


「儂じゃない。君らにそこまで面倒を見たがるのは、一人しかおらぬじゃろう。…ふぁ、ふぁ。そうかそうか、彼奴も他人に興味を抱くようになったか。ユーリア。君は本当に面白いのぅ」


 書類を渡したら、大爆笑しながら肩をバンバンと叩かれた。え、どういうこと? 首を傾げていると、長がにやっとイタズラな笑みを浮かべた。


「儂からは答えは言わぬよ。恨まれたら怖いからのぅ。あぁ、こわいこわい」


 身体を摩りながら、書類にサインした長は、手元のベルを軽く鳴らした。入ってきた従者に書類を渡し、わたしにも部屋から出るように言った。長の部屋からはほんのりと落ち着く香りがしたような気がした。我が家では嗅いだことのない香りだ。高貴な方は、香りにも気を使うのかもしれないと思いながら、礼をして退出した。




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