第11話 受付

「あ! あの馬車はうちの馬車だと思います」


「……念の為、そちらの馬車から見えない通路を選択しよう。いくら関わりが薄くとも、親だ。ばれると後が面倒だ」


 お兄様の先導で、武闘大会の会場に到着した。馬車の相乗りや馬の相乗りを提案したところ、変質者を見る目で見られた。この世界では、あり得ない行動で、簡単に言うと露出狂のような類だそうだ。軽く提案しただけで、変質者扱いは解せぬ……。


「バレないとは思いますが、念には念を入れた方がよさそうですね」


 大きな入り口を避け、裏口へと向かう。話を聞いたところ、男性たちは会場内でお酒や食事を楽しみながら観戦するが、女性たちは入り口付近に停められた馬車の中から魔導映像プロジェクターに映された試合映像を見るらしい。その間は、馬車の窓に簾がかかり、外の映像がよく見えるらしい。この馬車の列も、会場内の席も基本的には身分の高い者の方が前方だったり、いい席だったりするらしい。


 武闘大会が行われるのは、街の中心あたり、中心よりやや東方の位置にある円形競技場コロッセオらしい。

 わたしは街の中心が高位の者の居住地かと思っていたが、高位の者になればなるほど、北の方に居住しているとお兄様に説明された。

 森に行くための門が南にあるのは、森に出かける家は下位の者たちや平民が多いから、と。中位の存在なのに、森に行っているわたしはかなり異質なのだそうだ。本来なら、攫われる可能性が高い行動だが、普段の見窄らしい服装が身を守ることになっていたらしい。

 ちなみに、今日はお兄様が準備した服のため、安全装置もたっぷりついているし、かなりボリュームもある淑女のための服だ。……戦うには不便かと思っていたら、見た目に反して意外と軽い。こんなにもひらひらとした服で戦うのはかなり気を使うが、せっかくの衣装は大切に使おう。

 ちなみに、認識阻害を施していても、顔が出るのは破廉恥なことだそうだから、女性の参加者へは大会運営から仮面をもらえるらしい。視界は変わらない魔術具の優れもので、試合中に壊れても許されると言う手厚い待遇だ。

 そもそも、女性の仮面を壊すような攻撃をした時点で、紳士的でないとして失格になるリスクがあるらしく、試合中に壊れることは基本的にはないらしい。……素顔を晒した責任で結婚とかいう世界だもんなぁ。



 そんなことを思いながら、裏口に回ると、お兄様へたくさんの視線が飛んできた。ついでに、わたしのこともその視線たちは掠めていく。数ある視線の中で、圧倒的に強そうな視線を感じて思わず振り返った。かなりの背丈でも横幅でもある巨体で、わたしが振り向いた時には顔を背けていたその男に思わずぞくりとしていると、わたしの視線に気がついたお兄様が、その男の後ろ姿を見て顔を歪めた。


「……処刑人まで参加しているのか。……後ほど長に報告しておく。君は、あの男との試合に当たったら、無理はするな。無理と思ったら早めに降参しろ。あれは人間だと思わない方がいい。その魔術具があれば命は助かるだろうが、あの男の力にどれだけ耐えられるか……」


 そう言ってわたしを女性の控え室に押し込んだお兄様は、長の元へ駆けて行った。お兄様のその慌てた様子を見て、あの巨体の男の恐ろしさを少し感じたような気がしたのだった。

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