四月
しばらくぶっ倒れてました。
もっかい書き出します。
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――――新学期。
素晴らしき大学院生の始まり。
真っ当な人生を送ろう。
朝は七時に起きて、夜は日付が変わる前に眠る!
「んなことできたら誰も苦労しねぇよ」
人間新天地に行っても中身が変わらないように。
結局中身は同じ人間のままなのだから大した変化などはない。
帰省していた実家の天井を眺めて、ゆっくりと起きる。
時計はとっくに朝の九時。実家でさえ早く起きれないとはどれほど終わった生活か。
「…………リビング行くか」
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実家に帰った理由はいくつかある。
一つはこれまでの近況報告。
三月に病に伏した状態で追い出されてから何も連絡を取っていなかったため、無事を知らせること。
もう一つは書類の受け取り。
大学院に進学するに際して書類が一部実家の方に届いていたらしい。どうにか受け取らないと色々と手続きをする必要があるため面倒を極める。
そして、もう一つ――――。
「おぉ、おひさ」
「一年ぶりか」
「だな」
旧友と話すためでもあった。
――――幼少期からの親友たち。
今は既に高卒で働いてしまっており、あまり会える機会もない。こんな年度末の時期ではないと互いに時間を確保できない。
お互い、連絡をこまめに取るタイプでもないため近況すら知らない状態。
下手したら一ヶ月ぐらい既読がつかないこともある。
「どこいく?」
「もう一人が遅れてくるから呑む前に先カラオケでも入るか」
「りょ」
カラオケボックスに入り、歌いながら近況を話す。
「あ、そいえば俺大学院進学するよ」
「あぁ、そうなん」
「反応うっす」
「いや、だってお前定職つけないじゃん。卒業したとしてもどうせ職はないだろ」
「おう貴様人をなんだと」
毎回一言余計な親友は俯瞰した眼でこちらを見る。
人がまる一年苦悩したというものを……。
半眼を向けても意に介す雰囲気はゼロ。こいつこそ何故働けているのか甚だ不思議なくらい。
「まぁそんなことどうでもいいけどさ」
「人の重大な決定をっ!」
「いや俺関係ないし」
「そうだけども!」
「この後どこ呑みに行くよ?」
「もう隣の鳥貴族でいいだろ……」
「おおぉ~確かに」
能天気というか馬鹿というか。そんな友人。
気の置けない友を見て、相変わらずの様相に一安心しながら呑んだ。
二人は日中仕事をしていたようで、昼飯を抜いていた体力仕事の親友たちの食いっぷりは凄まじかったけど。
「え、お前卒論書けたの?」
「だからお前たちはなんでさぁ!?」
「見せてよ」
「お前ら分からんだろ」
「分かる分かる」
「ナニコレ」
「――――ふ~ん」
「お前らもうちょっと読めよ。まだ目次だぞ」
タイトルで詰んだらしい。
案の定、見せても頭に疑問符を飛ばしていただけだったけど。
色々と話をしていて、恋愛の話に転換する。
「そいやお前ら彼女は?」
「できるとでも?」
「なんでお前は毎回鼻につく言い回しなの?」
「お前の方こそ大学でできてないのかよ」
「うるせぇボケ。■■は?」
「できてねぇよ。てか温泉誘ってないじゃん」
「――――っ! お前覚えてたの!?」
「何の話?」
肩肘をついてこちらを見る親友に、思わず大声で叫ぶ。
「うるせぇな店だぞ」
「い、いやお前覚えてるとは全く思ってなかったから!!」
「で、何の話?」
「お互い『彼女ができたら温泉驕る』って約束」
「なんでそんな」
「直で連絡したらおもんないじゃん」
「お前ら乙女なの??」
落ち着く親友を他所に、覚えてくれていたことに感動する。
何せ高校の時から――――五年以上前の記憶だ。
俺は忘れていなかったとしても、向こうが覚えているだなんて一ミリも思っていなかった。てか実際に行ったの俺からの一回だけだし。
「まぁ連絡がなかったってことはそういうことだ」
「なるほど」
「それより、いい加減家買いたいんだよなぁ」
「えっ!?」
「あぁ分かる。一戸建て欲しい」
「何故に!?!?」
「金あるし。借家じゃない自遊空間が欲しい」
「ま、マジか……」
家って……そんなスケールまだ考えるほどじゃないだろ。
いや、収入が確かな社会人どもと同じ発想じゃいけないんだろうけれど。
こっちがまだ就職先さえ決まっていないというのに、もう更に一歩先の未来の話を……。
思わず感嘆を零す。
「すげぇなぁ」
「でも■■、どこに家建てるのさ」
「勿論働いてるとこの近く」
「…………地震来たら死ぬくね」
「おう」
「…………解散解散」
考えているんだか考えてないなんだか。
まだ自分はその場所に立つことすら許されていない。
大学院生になって、社会の輪から明確に外れていることをここで自覚させられる。
この先、恐らく忙しい日常が待っている。就活に講義に研究に……まだ新しいバイトすら見つけられていないのに。
(抱える問題は山ほどあるな……)
嬉しさ半分、不安半分。
やることは腐るほどある。
「どした?」
「……いや、なんかやることいっぱいあるなって」
「なんだそれ」
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――――入学式。
快晴の空。ぴっしりとしたスーツ。
アルバイトでさんざ着たものだ。
「結局、今年もたくさんスーツを着る羽目になりそうだな……」
もう
そんな淡い期待を寄せながら、見慣れた大学構内を歩く。
少しだけ早く会場に着く。卒業式と違って早く来てももう既に多くの新入生がいた。
これが若さか……四年も離れていたら少し近寄りがたさがある。
そこに入るほど頭は湧いていない。
「……一人か」
虚空にぽつりと、呟く。
もう昔馴染みはいない。
一ヶ月前まで学生だった友はいよいよ社会人になってしまった。
入社式を済ませ、今頃はあくせく働いているのだろう。
自分のザマに内心で苦笑し、うろうろと適当に歩き回っていると同じ境遇の知り合いを見つけた。
「あ」
「あ、○○」
「早いね」
「お互い様や。看板あるけど撮りに行く?」
「ちょうど今一人で渋ってたとこ」
「分かる。学部生ばっかだとね」
そうして一人仲間を見つけて、看板の前で写真を撮る。
そうこうしていると友人たちも来て、入学式を迎えた。
「院生は隔離されてるのか」
「暇だな。麻雀するか」
「学ばなさすぎない?」
なんだかんだ言いつつ麻雀アプリを立ち上げる。もう現実で麻雀牌を買ったらウチに住み着くのではなかろうか?
「買うの検討するか……」
「全自動雀卓って〇〇万らしいよ」
「なんで雀卓買う前提なん? てか全自動かよ」
「それよかこの後どっか飯行く?」
「適当に考えとくか」
後回しにする癖を直していかないと後々厄介なことになるだろうな。とはこの時は微塵も思っていなかった。
脳死で遊んでいると入学式は始まり、粛々と行われていく。
入学式自体はあっさりと終わって、そのまま適当な手続きを済ませて夕飯を介した。
「就活面倒くせぇ~」
「もう始まってるよな。大学院生なってすぐってあまりにも早すぎない?」
「分かるそれな」
「今はとりあえずエントリーばっかでしょ」
「俺はまだ」
「そりゃゲーム会社はな」
友人たちは基本的に地元のIT企業を目指すらしい。まぁ堅実と言えば堅実だし、何も悪い所は浮かばない。安定した高い収入でこの先を想定するのならば、それが普通で「そうあるべき」だ。
対して俺の志望はゲーム企業。
ウチの大学からゲーム企業へ行く人間は少なくはあれどいるにはいる。
しかしながら傍から見てもリスクしかない。
ブラック率は高いし、残業は当然付き纏う。企業は東京ばかりで地元にはないし、増して競争率は高い。
いかに大学院生でポートフォリオがあれど、戦うには中々渋い。
はっきり言ってただの夢追い人。うら若い学生がただ夢を持つ分には何ら奨励されることだが、二十歳を過ぎた現実を見るべき人間が掲げる思想とは言い難い。
就活のスタート時期は基本的に遅く、更に俺の目指す企業は中途採用しか行っていない。
今でこそ大学院生という延命手段を得たが、それで確実に入れるわけではない。可能性をゼロから壱にした程度のこと。
十二分に危惧していたことと、改めて自分の中で直面する。
「流石に普通の企業も見とけよ?」
「それは当然」
『普通』の就活も勿論する。中途採用を行っている限り第一志望の会社はいつでも受けられる状態だ。だがしかし初めに受けたくはないのも事実。
まだ全く時期を想定していない。
悩んでずるずると伸ばしていく姿を想像し、頭を振る。
「速攻で色々悩まされるの嫌だぁ」
「TOEICとか早めに受けといた方がいいかな?」
「SPIも――――――」
そうして皆が皆既に早くも就活に前向きになっている中で、耳を塞いで飯を食べる。
皆がそれだけ早く動いている。自分も勿論動いてはいるけれど、それでも焦燥感はある。
せいぜいやっていることなんてセキュリティマネジメント(SG)の試験対策くらいだ。
各種資格は持っておいた方が良いと感じて、三月の末に気分で応募した。
どうにか取って、幸先の良いスタートを決める。
帰り道にそう思いながら階段を降りていた。
――――瞬間だった。
「ぐぇ」
「ちょっ!? 大丈夫か?!」
「あ、足挫いた……」
大体悪い事柄はついてくるもので。
そこから数日、捻挫した足を休めるのに一苦労していた。
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――――翌日。足を引きずり大学に向かう。
その日も大学に出校する必要はあった。
「お、足大丈夫なん?」
「大丈夫そうに見える???」
「何だコイツ」
心配(?)してくれた友人に軽口を返し、席に座る。
放置していれば治ると思っていたが、そうでもないらしい。
大学院生にスポーツ科目は要ると若干思わなくもなかったが、死人が出るのでなくてよかったとも思う。
閑話休題。今日大学に呼ばれたのはただ談笑に耽るためではない。
大学院生向けのガイダンスと、俺にはそれともう一つ。
「では新しい先生の挨拶と、研究紹介を」
「はい」
元教授の後任の先生の紹介。
俺の研究室は前年度で教授が退職し、俺と先輩はその後任の先生の指導のもと研究を行うことが前任の教授によって言われていた。
先輩は前月の教授の追い出し会――――もとい最終講演にてその新任の准教授と顔を合わせていたようだが、俺自身はその時病気で倒れていて会っていない。
といっても、前月末の研究室の掃除の後、一度会う機会があったのだが。
その際に会った印象は、とても優しい善人というものだった。
悪意や害意は一切ない、元教授の性格を反映したかのような人。
やはり研究室の人間は教授に似るのだろう。俺の中でその仮説を勝手に立てる。
その時会っていたのは俺のみであったため、今回は他の院生にも紹介を兼ねて自己紹介を行っていた。
人当たりの良い印象は、皆同じように抱いたらしい。
「ありがとうございました。では続いて~~~――――」
そうしてガイダンスは終わり、俺は改めて准教授へ(足を引きずりながら)挨拶に向かう。
「〇〇先生、お疲れ様です」
「〇〇さん! お疲れ様。研究紹介伝わったかな」
「はい! 一応研究室の移動する学生もいる可能性はありますね」
「今は〇〇さんと△△さんだけだよね?」
「はい。先輩は確かもう先生と会ってるんでしたよね?」
「そうそう。一度□□先生の講演の時に挨拶を」
「まとまって会うのはいつぐらいになりそうですか? まだ全体で連絡を取るような機会がなくて、次いつ会うべきか」
「そうだね、□□先生とも一度交えて話をしたいから、とりあえずこの後グループを作っておくよ」
「ありがとうございます」
「あとさっき説明のあった研究計画とかも、また話そう」
「はい、是非」
端的に、けれど語る点は情熱的な人だった。
前任の先生のゆるふわさが欠けることに危惧していたが、こんな先生も悪くない。
むしろかくあるべきかもしれない。
連絡先だけ確認を取り、その日はその場を後にした。
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そうして、日常が作られていく。
特段これといった劇的なイベントは早々起きることはなく。
少しずつ研究と就職活動が進んでいく。
講義も軌道に乗り、慣れた頃。
ちょうどその日は昼食を食堂で食べようとしていた。
友人たちと数人で列に並び、これまで通り普通にしていた際に、見慣れぬ人物が列の前に立っていた。
「撮影に協力していただけますか?」
後から聞けばそれはテレビ局の人間だったらしい。
友人の一人がその撮影に快諾し、中身を聞く。
地域の放送局で、弊大学の食堂についてピックアップされるとのこと。
まぁ大学程度ともなればそういうこともあり得る。
ただまぁ……むさくるしい大学院生四人を掻い摘む放送局のセンスも中々だが。
ともあれ、食堂内のとあるメニューについて取材をしたいそうで、快諾した本人に連れられるがまま協力をした。
「メニューを指定されるってことは金出るんでしょ?」
「実費らしいよ?」
「は?」
「あとできれば副菜とかも買って欲しいだってさ」
「????????」
当然のように食べるものを選定されている。
別に他に食べたいものが明確にあった、とかではないからいいのだけれど。
協力を仰ぐのであれば向こう側が金銭を出すのは当然の結論だろう。
不満を抱きながら指定された席に向かうと、事前に座っていた友人二人は
「そこが取材受ける人の席らしい」
「がんば♪」
「「…………は?」」
あろうことか逃げて勝手にあてがわれた。
協力を是とした本人が、だ。
若干苛立ちながらも、その場で逃げ出さなかった自分を存分に恨む。
しかしながらもう遅い。
もう一人の友人とともに撮影に協力し、わざわざ撮るまで食べるのを待たされる。
「う~ん……もう少し食べてる印象が欲しいな」
「固くならなくていいからもっとガツガツ行こう!」
(飯食いながら話せと……???)
そもそも撮られること自体が好きではないのに。
ていうかわざわざ協力してやってるのに!
難しい指定をされてビジネススマイルを作るのさえ嫌だというのに。
(クソめ……速攻帰ってストレス発散したい)
全力で負の感情を押し殺して笑みを取り繕った。
食いたくもないものを敢えて喜んで食べているかのように見せる。これがテレビ局のやり方か。
「はいカット! ありがとね!!!」
結局自分のペースで昼食を食べることは叶わず。
知らないおっさんを真正面に大して美味しいとも言い切れないものを食して即、最寄り駅に向かった。
道中、不満を零す。
「あぁぁぁぁぁぁぁイライラする!!!!!」
「すげぇキレるじゃん」
「当然だろ! あんなことになるなんて全く思ってなかった。だからテレビは廃れるんだよ」
「おうおう待て待て火力高い」
「むしゃくしゃする……!!! めっちゃストレス発散したい」
「麻雀牌買って遊ぶ?」
「買う!!!」「コイツやば」
そうして即断即決で最寄りの店で麻雀牌を買う。
知り合いを誘うと二つ返事で家に飛んできた。
「麻雀牌買ったと聞いて」
「やろう。今すっごいストレス発散したい気分」
「やりましょやりましょ~」
その晩、未明まで延々と麻雀を打ち続けた。
翌日のSGの試験は落ちた。
###
「結局幸先の良いスタートなんて全くなかった」
やることに忙殺されて、早くもしおれてやる気が失せる。
何か気分転換がしたい。今月は旅行も行けてない。
そんなことを考えながら惰眠をむさぼっていると、中学からの友人から一つ連絡が飛んでくる。
『○○~ゴールデンウィーク暇?』
「今のところは特に予定なし」
『旅に出ようぜ。東尋坊』
「東尋坊……? どこそこ」
『福井』
「福井か……ありだな」
その時の俺は東尋坊がどういった場所なのかは全く理解していなかった。
名前では聞いたことあれど実際は何があるのか。何を名物にしているのかなんて全く聞き及んでいない。
二つ返事で承諾し、当日その友人の車に乗った瞬間、それは教えられた。
「東尋坊知らねぇの? 自殺の名所だよ」
「待て待て待て待て待て待て待て待て」
「別に身投げするわけじゃないんだし」
「いやそうだけども!?」
「実際に日中身投げしてる人なんていないって」
「日中以外だったらあるのかよ?!」
「そりゃ自殺の名所なんだから」
「マジかよ……」
そんな問答を繰り返しながら、友人ともう一人を連れて東尋坊へと向かった。
GWの日中ということもあり、その日は混雑しているのは当然だった。
ただ、景色はとてもよく視界は開けている。気分転換にはとても良いスポットであったのは確かだ。
これを見越して友人が誘った……とは考え難いが、それでも内心で友人に感謝する。
「意外と奥まで行けるんだな」
「風つっよ! これ柵ねぇのマジ?」
「下手したら普通に人死ぬやんけ」
「もうちょい奥まで行ってみよ」
「馬鹿なの?」
友人の心配を背にして、そのまま崖っぷちまで歩いていく。
周囲の人もその辺りを限界としているようだったため、ある程度景色を眺めて一息つく。
視界に拡がる蒼海に、思わず息が漏れる。
これだけの景色の前で人が死ぬだなんてもったいない。と幼げながら思い、しばらくして引き返した。
「景色マジでよかった」
「な」
「にしてもさ、なんか変な音しない?」
「変な音?」
「車というか――――救急車?」
「あぁさっき救急隊みたいな人歩いてたよな」
「まぁこんな場所なら常駐しててもおかしくないし」
「にしても忙しそうだったけど」
「あの人数なら大丈夫だって。もっと人が来るとしたら大事件だろうけど」
「大事件って」
続きを言おうとして、口を噤む。
言葉にせずとも分かる。
そうしてその不穏な予感を抱きつつ、周囲を観光していると、案の定その悪い予感は当たった。
「…………規制線張られだしたな」
「ヘリ来たし」
「人除けが激しくなってきたから一旦上の方に行こう」
ヘリの轟音と、その怪しさに口々に憶測を飛び交わす人の群れ。
当然それらは俺を含め友人たちも例外ではない。
「撮影はお控えくださーい」
「スマホしまおう」
下手に撮影をして怪しまれたくもない。
ヘリや救助隊の様子をスマホで撮影することは叶わなかったが、ヘリから降りた救助隊が何か人の形をしたものを布で覆って、再度ヘリに戻りどこか遠くへ飛んで行っただけは記憶に鮮明に存在している。
それが何を意味するのかは誰も彼も言いたくなかった。
ただ昼飯の前にそんな光景を見せられてしまい、食欲どころの話出なかったのは確かだ。
「メシどうしよっか」
「一旦お土産買う?」
「でもここで買ってもさ、土産話に『東尋坊行ったら人が亡くなってたんだよね』とか言うことになるじゃん?」
「嗚呼……」
間違いなくその未来が予想できる。
そうして気まずい状態で残る土産物……。ここで買う訳にはいかない。
「ご飯処探すか……」
「何食べるよ」
「折角なら海鮮料理食べたい」
「牡蠣」
「なるほど」
牡蠣はまだこの時期でも滅茶苦茶美味い。それに北陸ならしっかりとしたものがあるはず。
俺の意見で海鮮料理のある店の中に入り、そこで昼食をとることにした。
「まぁオレ牡蠣食ったことないんだけど」
「牡蠣は当たれば当たるほど美味い!」
「どゆこと?」
「それはさておき、ここの店の牡蠣のサイズはデカかったから、ここのをデフォルトだとは思っちゃいけない」
「なるほど了解した」
そうして昼食を食べて適当に土産物を見るだけ見て、あとは近くにあった神社でいくつか御朱印を取り帰宅する。
この一日で凄絶な経験をしたのは確かだが、それとは別で気分が晴れやかになったのは確かだ。
改めて友人に礼を言って、新たな相談をする。
「中途採用しかやってないゲーム会社が第一志望なんだけどさ。落ちた場合一年空くことになるじゃん? でも今終わったら相当アドなんだけどこれ今受けるべきかな?」
「うるせぇ。落ちたこと考えるのは後だ!!!!」
「っ――――――…………いや、お前我が事じゃないからって適当言ってるだろ」
「バレた?」
一瞬心動かされそうになったけど、冷静になって分析する。
コイツはそういう人間だ。
しかしながらそういったぶっ飛んだ考え方をするのを忘れていた。
大学院生になったから。
もう少し現実を見て行動をしなければならないと。
そう勝手に思い込んでいた。
「――――一旦、メール送ってみる」
「おう、その意気だ!!」
「お前絶対適当だろ…………」
「お前のようなイカれたやつに言われたくない!」
「イカれたって…………いやまぁそうなんだけども」
自分がマトモだ。なんて胸を張って言えるわけがない。
少なくともゲーム会社に就職したいがために大学院に進学し、ゲーム制作に取り組んでいる人間だ。
おかしいのは自覚しているしそう謂われたからといって不快になるわけでもない。
そう言いたいことだけ言って去っていった友人に感謝をして、メールを送った。
するとその翌日に、早くも返信が返ってくる。
「…………一定期間を経た後なら再応募は可能、か…………」
改めて深呼吸をして、決意。
「応募、するか」
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五月へ
2025年備忘録 珈琲 @betahobby
★で称える
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