第12話 竜王ミストレイ

「オドゥがすまない」


 ぼうぜんと魔導列車を見送るわたしに、竜騎士団長のライアスが謝ってきた。


「いえ、なんか強烈な人だったな〜っていう感覚はあって、白いローブと眼鏡は印象に残っているんですが、じゃあどんな人だったかというと、急に印象がぼやけてきて……まるで印象操作がかかっているみたい」


 ライアスもため息をついてうなずいた。


「オドゥならやりかねない。あいつは学園時代から成績もよく、高度な術式も使いこなしていた。それなのにどんなヤツだったか、思いだそうとしても出てこない」


「でもそれって、何の意味があるんでしょう?」


 人はたいてい自分のことは印象に残して、覚えてもらいたいはず。どうして逆のことをするんだろう。


 不思議に思ったけれど、これもオドゥの術なのか、もうどうでもよくなりかけてた。


 ウレグ駅に錬金術師がいた。いたけど……うーん?


 まぁ、どうでもいいか。それよりもドラゴンが気になる。


「錬金術師になるだけあって、あいつの感覚はかなり人とズレているから……すまない!」


 途中で失言に気づいたライアスが謝ってきたけれど、苦笑するしかない。


「錬金術師ってやっぱ、そういうくくりなんですね」


「……すまない」


「いえそんな、何度も謝らないでください」


 そこへ竜騎士がふたりやってくる。検問で最初に話しかけてきた緑髪の竜騎士はデニス、もうひとり紺色の髪を持つ竜騎士はレインと紹介される。ふたりともライアスよりずっと年上だった。


「団長、そろそろ我々も出発しましょう。駅前広場をドラゴンが占領しているので、早く場所を空けないと」


 駅前にいるドラゴンは竜王を含む三体、それに上空で旋回している、二体を合わせた五体のドラゴン、それを駆る竜騎士たち。どう見ても目立ちすぎる。


 わたしの出迎えにしては、大げさじゃない⁉


(レオポルドという魔術師は、いったい何を考えているのかしら……)


 ライガで目立ちたくなくて、わざわざ魔導列車を選んだのに。竜騎士たちが迎えにきて、ドラゴンで王城に行くとか。


(……どうしてこうなった?)


 このときのわたしはまだ、グレンが本当はどんな人物かもよくわかっていなかった。


 レインは遮音障壁を展開してデニスと話しだし、ライアスは上空の竜騎士たちにエンツを送り、指示をだしている。


 わたしは広場にいるドラゴンたちを観に行くことにした。竜騎士たちが乗るドラゴンは、それぞれ決まっているらしい。レインの騎竜が翼を震わせているだけで、それ以外のドラゴンは静かに佇んでいる。


(生きているんだなぁ)


 光沢がある白銀の鱗に覆われた白竜は力強いだけでなく、優美で繊細な美しさがある。


(魚の鱗とは違うのね……光沢があって宝石みたい)


 ひときわ大きな蒼竜は王者の風格を漂わせていて、竜王と呼ばれているらしい。名はミストレイで、ライアスの騎竜でもあるらしい。青みがかった鱗ひとつひとつが大きくてツヤがあり、びっしりとその体を覆っていた。


 近くで見るドラゴンは緩やかに呼吸で上下する胸や、大地をしっかりと踏みしめるたくましい脚も、どっしりとした圧倒的な存在感で、何もかもがすごい迫力だ。


 指先からは鋭いかぎ爪がのぞき、仰ぐように見上げていたら、ミストレイもわたしを見下ろした。


 竜王と目が合えば、その金色に光る目の瞳孔がシュッとすぼまり、屈むように頭を下げ、わたしの目をのぞきこんでくる。その呼吸や鼻息の音が、すぐそばで聞こえた。


(おっ、もしかして人なつっこい?)


 突きだしてくる鼻先にそっと触れて、嫌がられなかったので今度は撫でてみる。


 キュル……とミストレイの喉の奥から、大きな体に似合わない可愛らしい鳴き声が聞こえ、ミストレイの黄金の目がゆっくりとすがめられる。


「ふふっ、可愛い」


 強くて誇り高くて、賢い生き物だとグレンから教わった。今わたしは、そのドラゴンに触れている。


(感動しちゃうなぁ……)


 手に伝わるドラゴンの魔力が心地よくて、わたしはそのまましばらくミストレイの鼻を撫でていた。


「ミストレイが撫でさせている……?」


 声が聞こえて振り返ると、ライアスたちがぼうぜんとこちらを見ている。準備もほとんど終わったようで、そろそろ出発かな?


「あっ、話終りました?」


「あ、ああ……」


 ライアスはわたしとミストレイを見比べて、ふしぎそうに自分の鼻をさわった。





 ミストレイが身体をかがめ、伏せをするように地面に胴体をつけ、他の二体もそれにならうように同じ姿勢をとった。わたしに手を貸して乗るのを手伝いながら、デニスさんが聞いてくる。


「ネリアさんは竜王ミストレイに、団長といっしょに同乗して頂きますが、〝固定〟はどのようにしますか?」


「固定?」


「ドラゴンからの落下防止に、固定具でたがいの体をつなぐんです。前なら団長がネリアさんを抱きかかえる形で、後ろなら団長が背負う感じになりますね」


「ああ、なるほど」


 背負うってことはおんぶだよね?


(さすがにおんぶは恥ずかしいなあ。抱きかかえられるほうがいいかも)


「じゃあ、ライアスさんには抱いてほしいです!」


 そのとたん三人の竜騎士たちはビシリと固まった。


「あ」


 わたし、今なんて言った?


「いや、その、」


 ニュアンス!そう!ニュアンスは伝わったよねっ!


 聞きようによっては違う意味にも取れるけど、言いたかったことは正確に伝わっているよねっ!


 救いを求めてライアスを見たら。


 耳まで真っ赤になってフリーズしていた。


 いやああああ!


 お願い!耳まで赤く染めないで!さらっと流して!さらっと!聞かなかったフリして!


 恥ずかしそうに目元潤ませて目ぇ逸らさないで!色っぽすぎるから!意識しちゃうから!やめてぇえええ!


(デーダス荒野からでてきて……いきなりコレって刺激強すぎる)


 その後、ライアスにがっちりとホールドされ、腰のあたりをハーネスのような物で固定され。


 頭が彼の胸あたりに来たため、わたしからは彼の表情が見えないことにホッとする。


 でないといたたまれない……。

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