第19話 入院35日目〜39日目 怪物君の空

入院生活も長くなった。

看護師の方々や清掃スタッフさん、病院事務の方々、栄養士、薬剤師の方とそれなりに親しくなり、院内の人間関係は円滑だ。

痛みもまあなんとか我慢できる程度におさまってきた。


もうその気になれば歌って踊って、なんならウィンクの一つでもキメられそうな気分だ。

しかし骨はまだ三箇所ポッキリ折れているわけで、ほぼ動けない。


運動不足でストレスも溜まる。

音楽と、時には動画などを見たりして紛らわすのだけれど、最近嬉しいのはMLBのポストシーズンの中継がAmazonプライムで見られる事。


元々そんなにスポーツ観戦が好きなわけでもなく、ニワカもいいところだが、こうして動けない時にはなかなかどうして気休めになる。


特に、令和の怪物・佐々木朗希選手が怪我から回復して獅子奮迅の如く活躍している姿は見ていて心が癒される。

スポーツ観戦で癒されるという感覚自体、健康だった時には全く無かったのだけれど。少し不思議。


佐々木朗希選手は、怪我や不調に見舞われて少し前まで苦しんでいた。

報道では、もはや戦力外のトレード要員だ、メンタルも肉体も弱くてMLBでは通用しない、といった失望論。それに加え、やれ挨拶しないだの遅刻ばかりだの大谷翔平に無視されてるだの、人格否定レベルで書き殴られていた。

メンタルが弱くて日本で完全試合なんかできる筈もなく、フィジカルが弱くて奪三振記録が作れる筈もない。完全に言いがかりだったのだが。


まあそういう理不尽なバッシングを受けまくっていた人の、ここにきての活躍と再評価。どのようなドラマよりも楽しませて頂いた。

怪物朗希に限らず、怪我から回復した人の再起にはカタルシスがある。


こんな風にスポーツ観戦を楽しめる様になったのだなと、自分で驚く。

患部が安定してきて次のステップが見えてきたということなのだろうか。感覚の戻らない足指を自分でマッサージしながら、安堵でも失意でもない溜息。


リハビリ疲れか。

純粋に疲労からきた溜息は、いつ以来だろう。

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