第12話 入院22日目 チタンの足とプロテクター①


3回目の手術をした。

足にはバッチリとチタン合金のプレートが装着された。もう一生取り外さないのだそうだ。

「結構大変な事ですよね」と看護師に呟く。

愛想のいい看護師は和かに

「夏乃さんがご自身で感じている以上の大怪我だったんですよ」と返す。


「むう」なにがむうなのかわからないが、言葉に詰まって朝食と一緒に出された出涸らしのお茶を飲む。


普段なら出勤準備で慌ただしい時間なのだが、ある意味優雅なものではある。外はここ数日ずっと快晴で、夏らしい爽やかな景色が忌々しくも窓の外に広がっている。


チタン合金がいくら素晴らしくても、骨自体はまだ三箇所も折れたまま、ただ繋いでいるだけに過ぎない。脛の辺りは、ぱんぱんに膨れ上がって破裂しそうな肉塊を包帯できつく押さえ付けているような有様だ。


包帯の隙間から紫色の皮膚がのぞき、ビニールを貼り付けたような感覚の足裏は、血液なのか髄液なのか知らないが体を流れる液体が、そこでいったん停留し揉みほぐす事でようやくドクンドクンと流れていくかのような引っ掛かりを常に感じさせてくる。


どういう仕組みでそう感じるのか分からないが、本当にそういう刺激を足に感じる。不思議。


チタンカーボンというサイボーグぽい響きに反して見た目はさながら墓場鬼太郎の親父さんだな、なあ鬼太郎、いや体型しか似ていない看護師さん。


お化けは死なないし、お化けでいる間は仕事もなんにもなあい。

とにかく今は体力回復と、折れていない部分を極力使ってのリハビリの日々だ。


担当医の先生は、かなり腕の良い素晴らしい医師だ。

そして素晴らしい腕の外科医にありがちな、切りたがりの先生なのではとギワクが残る。「腫れが引いたらまた切ります」「うん、回復が早いので明日あたり切れます」「念の為に反対側にもプレートを入れます」「なあに、手術はすぐ終わる簡単なものですよ」


「安心して下さい」と実に明るく、まあ暗く言われても怖いけれど、本当に嬉しそうに切ってくれるので、こちらも安心。なはずはなく、嫌で仕方ない。


そんなこんなで切っては回復、回復したらまた切るを繰り返すこと3回。

たぶん、もう切らないでいいでしょうとの事だが、このたぶんがまた怖い。


しかし今回は本当に切らずに済みそうだ。

腫れが引いたら次は装具、杖で歩く為のプロテクターの型取りをするとの事。


お値段は約13万。お高いが足には代えられぬ。

はい振り込んでおきますよ、とスマホから送金。

持ってて良かったiPhone16。

病室から出れなくても支払いはバッチリだね、まるで打ち出の小槌だね。お金を出してくれるのではなく持って行ってしまう小槌だけど。


なんにせよプロテクターがくれば数週間ぶりに歩けるのだ。

いやしかし本当に歩けるのか、この有様で。この傷で。


まあとにかく現代医学を信じて任すしかない

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