第12話「過去からの使者」
俺が獅子王カイゼルからの熱烈すぎる求婚から逃げ回っていた、そんなある日。ライオネル王国に、一団の使者が到着した。
掲げられた旗は、俺が追放された国――人間国アルバ王国のものだった。
玉座の間に通された使者団の先頭に立つ人物の顔を見て、俺は息を呑んだ。そこにいたのは、かつて俺に『役立たず』の烙印を押し、ゴミを捨てるように追放した張本人、バルドゥス神官長その人だった。
バルドゥスは俺の姿を認めると、一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに蔑むような笑みを浮かべた。まさか、追放した外れ聖女がこうして王の隣に立っているとは、夢にも思わなかったのだろう。
一方、俺が獣人国で『賢者』として類いまれな功績を上げているという噂は、当然アルバ王国にも届いていた。
食糧問題を解決し、伝染病を激減させ、ついには古代の製鉄技術まで復活させた――そんな夢のような話が伝わるにつれ、アルバ王国の王や神官たちの間では焦りと後悔が渦巻いていた。
ミコトは役立たずなどではなかった。国一つを豊かにするほどの、計り知れない価値を持つ存在だったのだ。
そうと分かれば、彼らの行動は早かった。手のひらを返すように、「貴重な聖女様を野蛮な獣人国に置いておくわけにはいかない」という大義名分を掲げ、今回の使者派遣に至ったのだ。
バルドゥスは玉座に座るカイゼルを一瞥すると、わざとらしく咳払いをして口を開いた。その態度は、同盟国の王に対するものとは思えないほど横柄で傲慢なものだった。
「ライオネル国王カイゼル陛下。我々は、我が国の『聖女』ミコト様の即時返還を求め、参上いたしました」
聖女様、と、かつて俺を罵ったその口が言う。吐き気がした。
カイゼルは表情一つ変えず、静かに問い返した。
「……返還、だと?」
「いかにも。ミコト様は我らが召喚した聖女。本来、我らの神殿にてお護りすべきお方。これ以上、このような蛮地にてお預かりしておくわけには参りません」
バルドゥスは、さも俺の身を案じているかのような口ぶりで続ける。
「さあ、ミコト様。帰りましょう。あなた様を『役立たず』などと誤解しておりましたこと、お詫びいたします。国に戻れば、聖女として最高の待遇をお約束しますぞ」
その言葉に、俺はぐっと唇を噛んだ。今更、何だというのだ。俺がどれほど惨めな思いをしたか、彼らは何も知らない。知ろうともしない。ただ、俺の『価値』に気づいたから取り戻しに来ただけだ。
俺が何も言えずにいると、バルドゥスは焦れたように俺に向かって手を伸ばしてきた。
「さあ、こちらへ!」
その手が俺の腕に触れようとした、その瞬間。
凄まじい威圧感が、玉座から放たれた。
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