蛸転生。出会った女賢者がヤバすぎる
新巻へもん
第1話 蛸
意識を取り戻したら、なぜか海の中にいる。
でも苦しくないし何事かと思っていたら、なんだか体に違和感を感じた。
ふだんあまり意識していないけど、まあ、人間が動かせる手足というのは通常は計4本である。
それがなぜか2倍の8本ある気がした。
試しに動かしながら数えてみる。
ちゅうちゅうたこかいな。
うん。
かいまで数えられたぞ。
ということは8本ある!
そこで不意に思い出す。
あー、そう言えば俺は死んだんだった。
手だか足だかが8本あるということはつまり、蜘蛛に転生したんだろう。
そういえばそんな話があったな。
ん。まてよ。
海の中に蜘蛛がいるなんて聞いたことはない。
水中でも活動できるミズグモはいるが生息しているのは淡水環境のはずだった。
じゃあ、あれか。
タラバガニ。
ハサミも含めて8本のはず。
正確には10本だけど2本は見えないし凄く小さいからな。
そこまで考えたところで急に思考がクリアになった。
あー。違う。
俺、蛸だわ。
わさわさと8本の足を動かしてみる。
視界にも吸盤の生えた足が入った。
蛸かあ。
転生先としてはかなり微妙だよなあ。
なんと言うか、活躍して幸せになるビジョンが見えないんだよ。
これが蜘蛛ならアラクネみたいな上位の存在に気に入られるとかいう展開もありえるわけだけど、蛸だよ蛸。
日本語においては罵倒語じゃん?
せめてイカなら可愛いイカ娘と知り合う可能性もなくはなかったんじゃなイカ、という淡い期待があるけど、蛸って何かそういう存在いたっけ?
真剣に考えたが、残念ながら俺のメモリーには存在しなかった。
がっかりしたけれど、実際に生活を始めてみるとそう悪い境遇でもないことが判明する。
まず、体長1メートル超の巨体なので海の中では相対的に強者だった。
でかいサメとかに襲われたらひとたまりもないだろうが、俺の住む海域には居ないようである。
というわけで、蟹や海老、貝などの高級食材を食い放題だった。
自在に操ることができる8本の足は意外に強力で蟹を捕らえて脚を引きちぎることができる。
それに口から出る唾液には神経毒があって獲物を麻痺させることができた。
綺麗な穴倉を見つけることができたので住むところにも困らない。
衣食住と言うが、食も住もなかなかに充実しており下手に人間として生きるよりはいいかもしれないと考えるようになる。
まあ、服は着てないので全裸ですが何か?
満員電車もクソ面倒な客も意味不明な上司もいない環境でぬくぬくと生活した。
時代はやっぱり蛸ですよ。
そんな天国のような暮らしはある日突然終わりを告げる。
運悪く俺が巣穴から離れて狩りをしている最中に強烈な嵐がやってきて海の中も荒れに荒れた。
本当は水深の深いところに向かうべきだったのかもしれない。
しかし、俺は暗いところに避難する気になれず浅瀬で耐えようとする。
その結果、とんでもない大きな波が押し寄せてきて俺は浜辺に打ち上げられた。
蛸が上陸して芋を盗みにくるという伝承があるが、あれは絶対に嘘に違いない。
陸上では全然思うように動けなかった。
荒天が続けばよかったのだが晴れ間が出て、浜辺にクソガキどもがやってくる。
「わあ。でかいオクトパスだ」
「海の化物だぞ。やっつけろ」
「くらえっ!」
クソガキどもは木切れを持ってきてヒットアンドアウェイで俺をさんざんに打ち据えた。
お、やるか?
蛸殴りにしてやんよ。
墨を吐いてみるが服を汚しただけである。
もともとは水中での目くらまし用なので粘度が低く毒を含んでいるわけでもなかった。
それでも万全の体調だったら、そして海の中だったら俺の方が勝っただろう。
しかし、この状態では陸に上がった河童ならぬ蛸であった。
蛸殴りにされた俺に多くの傷ができて息も絶え絶えになったところで声がする。
「あらあら、何をしているの?」
「悪い蛸をやっつけているんだ」
「駄目よ。動物をいじめたりしたら。可哀そうじゃない。私に免じて許してあげて」
「でも、こいつもう死にそうだよ。とどめを刺してやったほうがいいんじゃないかな」
「そんなことを言って。それじゃあ、これからはあなたが死にそうになっていたら治癒魔法を使わなくてもいいの?」
「それはやだ」
「じゃあ、その蛸は放してやりなさい。代わりにお小遣いあげるから」
「しょーがないなあ」
これは浦島太郎展開か?
でも、俺は竜宮城なんて知らないんだよな。
そもそもこの世界に竜宮城があるかどうかも分からないし。
やっぱり少しは深い場所を探索しておくべきだったかもしれない。
このままでは恩返しすることもできないな、などと考えている間に事態は進行している。
「荷車を取ってきて」
「どうするの?」
「連れて帰って治癒魔法を使ってみるわ」
俺は傷ついて腫れた目で救い主を見てみた。
シンプルな服で隠しきれないドすけべボディのお姉さんがクソガキどもを説諭している。
大きな目をしていて鼻梁が通っていた。
ぷっくりとした唇と口元がちょっと緩い感じがセクシーである。
ガキどもの顔が赤いのはお姉さんの色香に当てられているのに違いない。
「ね。私のお願い聞いてくれるかな?」
お姉さんが屈みこむとガキどもは胸の谷間に目が釘付けになってそれこそ茹でた蛸のように真っ赤になった。
あれよあれよという間に荷車が用意されて俺はその上に乗せられる。
少し離れたところにある村の礼拝所に俺は運び込まれた。
「これでいいわ。ありがとう。これはお駄賃よ」
ウインクをしたお姉さんはガキどもに小銭を渡す。
「また何かあったら言ってくれよな」
そう言ってガキどもは退散をした。
お姉さんが何かつぶやくと俺の身体は大きなシャボン玉のようなものに包まれ宙に浮く。
そして、移動を始めた女性の後ろをふよふよと飛んでついていった。
よく分からんが魔法ということらしい。
お姉さんは丈夫そうな扉を押し開ける。
そこで振り返って妖艶な笑みを浮かべた。
ぺろりと舌を出して唇を舐める。
その表情はとてもえっちだったが、なぜか俺は強く危険性を感じて身を
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蛸転生。出会った女賢者がヤバすぎる 新巻へもん @shakesama
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