中編

「本日から、こちらに所属することになりました!羽崎 エリです!よろしくお願いします!」


活気溢れ、少し幼さも感じられる声の女性が、敬礼をしながら言った。

「朝霧さん......ちょっとキツかったな...」

近くの建物で張り込んでいる弥野は、思い出しながら顔を引き攣らせていた。


「羽崎ちゃん。分かんないことあったら、俺に聞いてよ。なんでも答えちゃうから。」

チャラそうな警官が朝霧に近づく。

(めんどくさいわね...)

「分かりました!ところで私、ここに来たばかりなのであまり署内の事とか分からなくて...教えてくれませんか?」

上目遣いで警官に教えを乞う。

「えー!しょうがないなー!じゃあ着いてきて!」

鼻の下を伸ばしながら、上機嫌に歩き出す。

(うわ......)

朝霧はチャラい男に着いていく。


「ここが俺たちの所属している生活安全課でー、ここが地域課。それからあっちが会議室」

1階から順に説明がされていった。

「じゃあ次に3階ね。3階は刑事課だね。で、あっちが総務課」

「じゃあ次は4階ね」

4階に行くために階段を登る。

その時に、

「お前たち、刑事課の者じゃないな」

低音が響く。

パッと振り返るとそこには、スーツ姿にコートを纏い、腕時計を付けている男が立っていた。

(この人絶対刑事でしょ)

チャラい男は慌てて答える。

「すみません!実は今、新人に署内の案内をしていまして!」

「...そうか。ところでお前の名前は?」

男は朝霧に質問を投げかけて来た。

「はい!私の名前は羽崎 エリです!本日からこちらに配属されました!よろしくお願いします!」

男は朝霧をじっと見つめる。

それから視線をチャラい男に向けて、

「......分かった。引き止めて悪かった。」

チャラい男は敬礼をしながら。

「大丈夫です!失礼しました!」

と言い、朝霧を4階へ連れ出した。

チャラい男は小声

「次は署長室がある4階だからな。羽崎ちゃんは大丈夫だと思うけど、絶対に変な行動はするなよ?」

朝霧も小声で

「大丈夫ですよ。任せてください」

と言った。

朝霧は会話中に、手を後ろで組んでいた。

朝霧の手には、小型の装置が握られていた。

朝霧はその装置を押す。

ピーーーー

「お、朝霧さん4階に行ったかな?」

弥野はあんぱんを食べながらボヤいた。

「暇だなー...」

すると、トランシーバーから東雲の声が聞こえてきた。

「こちら東雲、黒い車が数台向かってきました」

「了解。東雲はそのまま見張っててくれ」

「了解」

短いやり取りが行われる。

(良いなー...俺のところにも変化ないかな〜?)

待てども待てども、場が変わることはなかった。


「ここが署長室だ。今は署長は外出していていないが、普段はここに居る」

「これで一通り案内したかな?」

「先輩、ありがとうございます!」

チャラい男は少し照れながら

「いいよ、いいよ。これからも分からないことあったら言ってね!」

チャラい男は笑いながら言った。

(案外いい人のようね)


朝霧は生活安全課に戻る前にトイレへ行った。

トランシーバーを取り出し

「こちら朝霧、特に変わった様な物は見当たりませんでした」

「了解」

「行動開始します」

トランシーバーをしまい、トイレから出る。

するとそこにはあの男がいた。

「羽崎って言ったか?お前、何者だ?」

静まり返る。

「何者って...普通の新人ですよ?」

「新人ねぇ...俺の勘が言ってるんだよ。お前、相当経験積んで来てるな」

「経験って...何を言っているんですか?」

朝霧は平静を装う。

「まずお前の目付き、相当鋭い。今も揺らいではいない。」

「次に声だ。俺は結構耳がいい方でな。作っている声が分かるんだよ」

男は朝霧に近づく。

「正体見せろよ」


朝霧は男を押し退ける。

「すみません!正体がバレました!」

「何?!弥野!突撃だ!」

「了解!」

弥野は警官に変装し、署内に入る。

「朝霧、弥野。お前達は出来る限り、バレないように証拠を探せ」

「まずはそいつを気絶させろ」

「「了解」」


正体がバレた朝霧は声を戻す。

「凄いわね。その洞察力が羨ましいわ」

朝霧が男に話しかける。

「それはどうも。長いこと刑事やってるんで」

男は淡々と話す。

その瞬間、朝霧が飛びかかる。

手にはスタンガン。

男との距離は数十cm、数cm、数mmと狭まっていた。

男の首に当たるわずかな距離、男が横に躱す。

そして、朝霧に蹴りを入れる。

「クッ...」

男が追撃を入れる。

朝霧はガードをするので手一杯だった。

「大丈夫ですか?お姉さん。1回手ぇ止めましょうか?」

「そうしてくれると助かるわ」

「まぁ、止めないんだけどね」

男は殴りまくる。

どんどん壁へ追い込まれていく朝霧。


その時、

「ちょっと待てや!この野郎!」

弥野が飛び込んで来た。

弥野の蹴りが男を捉える。

「痛っ。もう1人増えたな」

お互いに構えの体勢に入り、距離を取る。

「おっさん強そうだね」

弥野は睨みつけて言う。

「お前もな。いい目付きをしているなー...」

睨み合いの状況。

先に打開したのは男の方だった。

腰を低く落とし、距離を詰め、拳を突き上げる。

弥野は後ろへ避け、攻撃体勢に切り替える。

次の瞬間、弥野はその場から消えた。

様に見えたのだった。

気がつくと、男の眼前に弥野はいた。

男にラリアットをかまし、男を倒した。

弥野は畳み掛けるように、男に殴りにかかる。

男はすかさずガードをする。

周囲には鈍い音が連続して鳴っている。

弥野がトドメの一撃を決めようと、大きく振りかぶった時に、男が弥野を殴り、距離を取った。

「あっ、やべ」

「何やってんのよ...」

男はコートに付いた埃を払い、深呼吸した。

「ふぅー...危なかったぞ」


男は再び構えの体勢を取る。

「刑事舐めんなよ」

男は踏み込む。

弥野ほどでは無いが、十分速い。

男が殴りにかかる......と見せ掛けて、弥野を掴む。

そして、腰に掛けていたスタンガンを弥野の首に押し当てた。

「あばよ。若者よ」

その瞬間、弥野に電流走る。

比喩では無い。

文字通り弥野は電流をくらい、体を震わせていた。

弥野はぐたりと倒れ込んでしまった。

「あんた、卑怯ね」

朝霧は男を睨みつける。

「悪いなぁ。これでも警察としてのプライドがあるもんでね」

男は朝霧に近づく。

手にスタンガンを持ち、ゆっくりと進んでいく。

「悪いが2人とも、話を聞かせてもらうぞ」

男はスタンガンを朝霧に近づける。

その時、男が震える。

「ガハッ......」

男は倒れ込む。


「弥野...あんたアレを食らったはずじゃ...」

朝霧は驚いた様に聞いた。

「えぇ、そうっすよ。ガッツリ食らいましたよ。けど、なんか助かりました」

「......」

朝霧は信じられない、とでも言いたそうに弥野を見た。

「まぁ、助かったなら良かったわ」

「しっかし、こんだけドンパチやっても、誰1人として気づいてないっすね。」

「確かに...防音性が高いわね」

朝霧は耳を澄ませるが、何も聞こえない。

「あまりにも、静かすぎるわね」

「まぁ、いいじゃないっすか!証拠集めちゃいましょう!」

弥野は証拠を集めるために、階段に向かって歩き出した。

「ちょっと待ちなさい!」

朝霧も弥野を追いかける様に歩き出した。


一方、東雲の方は物陰に隠れ、様子を見張っていた。

視線の先にはターゲット達が話し合っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る