警察内警官

未熟者

前編

20XX年。

AIのさらなる発展により、人々の生活をより豊かなものにする反面、AIによる監視、統制が始まった。

日本も例外ではない。

政府は憲法を一部改変すると同時に、新たな法律を作った。その法律により、AIによる監視、統制が行われるようになった。

見過ごされてきた軽犯罪なども明るみになり、市民による犯罪は根絶され、窮屈な世の中になってしまった。

しかしその反面、日本の犯罪件数は大幅に減少し、

日本の治安は以前よりもさらに改善した。


........はずだった。

しかしその実態はあまりに理不尽で欠陥の多いものだった。

犯罪件数としてカウントされたものは全て一般市民によるものだけであった。

その理由は法律にあった。

中枢AI:ARGO(アルゴ)。

ARGOは日本国民の個人情報、ネットデータ、日本全土にある防犯カメラにアクセスすることができる優れもので、防犯カメラに映る人物と個人情報を一致させて、監視、統制することを目的としたAIであった。

しかしARGOには監視対象外となる職業があった。

―――国家公務員だ。

情報漏洩による市民の混乱を防ぐために法律により、国家公務員にはARGOが反応しない仕組みとなっている。


この法律により表向きでは犯罪が減っているように見えるのだが、実際は、国家公務員による犯罪が横行しているのだった。


警察も例外ではない。

警察内部では暴行、窃盗などの汚職、犯罪行為が横行しており、市民にまで被害が及ぶことがあった。


そんな中、警視総監含め、一部の警視長が秘密裏にある組織を発足させていた。

それが警察内警官、通称:内警(N.P.D.)だ。

内警は警察内部の犯罪を暴き、裁くことを目的とした秘密組織である。


―――そして今、そんな内警の一員が、ある事件についての情報を手に入れていた。


薄暗く点滅する照明の下、モニターの光に男が照らされていた。

画面に写っているのは防犯カメラの映像、そして事件に関するリーク情報と司令内容だった。

「.....これは.....クロかな?」

男はポツリと呟く。


これが、内警の任務が始まる合図でもあった。


―――「えー...今から今回の作戦内容を話す」

ホワイトボードの前に立ち、立派な髭を生やした体格の良い初老の男が言った。

白羽 樵一しらば しょういち

元神奈川県警の警視長であり、内警の総司令官である。

肩幅が広めで厳つい顔つきだが、見た目とは裏腹に頭脳明晰で、戦闘はそこそこらしい。

「今回のターゲットは川崎市にある日野河警察署だ。」

ホワイトボードに貼られた写真を指さした。

「情報によると、犯罪組織との繋がりがあるそうだ。どうやら日野河警察署で押収された麻薬、拳銃などの品数の不一致。そして、ここで処理された犯罪組織関連の事件が、どうも事実と異なるらしい。」


ここで席に座り、パソコンに視線を落としていた男が口を開いた。

「見つかりました!どうやらここで処理された事件の大半が、工作されて報告されているようです!」

モニターに移された内容を見るとそこには、実際の資料と報告時の資料が比較されて、映し出されていた。

能神 真矢のがみ しんや

内警のサイバー班で、ハッキングについて右に出る者はいない。

「もうちょっと探せば、色んな情報が出てくると思

います。」


「なるほど。じゃあそっちのことは任せた。次に現場についてだが....今回は潜入捜査を行なってもらうのだが.....行けるか?朝霧。」

朝霧 ミナ《あさぎり みな》。

現場班で潜入捜査のプロだ。

姿形、声色を変幻自在に操る天才だ。

「はい。任せてください。」

妖艶な声で言う。


「えー....現状では以上だが、何か質問は?」

総司令官の言葉に手を挙げる者はいなかった。

「よし。それじゃあ、朝霧の潜入捜査にもう一人、同行して欲しい。万が一の為に、近くの物件で待機してくれ。それじゃあ.....弥野、任せたぞ。」

「え〜...俺なんすか?」

弥野 雄大みの ゆうだい

現場班で対人戦のプロだ。

フットワークは軽く、相手への一撃は重い。

純粋な戦闘力で言うとトップ3を争うほど強い。

その反面に状況判断力が少し劣っており、ピンチの

状況に陥ることが多々ある。

「俺、もっとドンパチ戦いたかったすよ。」

不満げに弥野が言う。

「すまないが、今はこれに従ってもらう。」


「次に、犯罪組織の方についてなんだが...こっちは川崎警察署との繋がりを確認でき次第、突撃とする。」

「それでなんだが.....今回の突撃隊は東雲1人だけにする」

白羽の発言に周りがザワつく。

「流石に東雲さんでも...」

「何考えてんだ?総司令官!」

「いくらなんでも...そんな所に1人は...」

この場を鎮めるように白羽が、

「落ち着け!確かに、敵陣に1人だけと言うのは、無茶な事だ。だが俺は、データとこれまでの経験で東雲を推薦した。」

白羽の発言に、

「まぁ、確かに...だけど!」

「う〜ん...確かに東雲さんなら...」

総司令官が俺に向かって言う。

「行けるか?東雲」

東雲 賢師しののめ けんじ

元特殊作戦群所属の軍人だ。

戦闘面で言うと内警で1番高く、数々の任務をこなしてきた。


俺は頷く。

「大丈夫です。任せてください」


「と、言うことで今回はこれで行なう」

「何か言いたい奴はいるか?」

この問いには誰も答えなかった。

「それでは、各自解散!」

それぞれ準備に取り掛かる。

能神はさらなる情報を求め、ハッキングを、

朝霧は衣装、警察手帳を用意し、

弥野は食料を集めた。

そして東雲は......何もすることはなく、ただその日を待っていた。


―――数日後。

「朝霧。行けるか?」

「はい。私の方はOKです。」

「そうか。東雲は?」

「俺の方も大丈夫です。まだ、動きはありません」

白羽はひと息吸い、声を出す。

トランシーバー越しで、ノイズを混じらせながら。


「では、今から作戦を開始する!」

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