Can't look away

八島都

プロローグ 

太平洋を見渡す丘の上は、嫋やかな潮騒と淡い黄昏に晒されてとても心地が良かった。

傷ひとつない骨壷をゆっくりと逆さにすると、彼の名残は微風に吹かれて散っていった。

最後の最後まで悩んだが、諦めた私は、彼女の遺品も海に投げてやった。私が持っていても仕方がないと、そう言い聞かせて心を沈めた。


「なんだか、疲れたな。」


思わずこぼれた言葉と共に、私は冷たい岩の上に腰を下ろした。

最後の一本に火をつけようとすると、途端に吹いた風が煙草をつまんで、そのまま海に投げ捨てた。


「なんだよ、死んだんじゃないのかよ。」


手持ち無沙汰になった口がカラカラと震え、気づけば涙が止まらなくなっていた。辛い、悲しい、寂しい、会いたい。押しつぶされそうな心臓をゆっくりと落ち着かせ、私は日が沈むのをゆっくりと眺めた。



日の本の再建には暫く時間を要するだろう。

その間、この国はありとあらゆる危機に晒されていくはずだ。私は、私たちは、その脅威からこの国を守っていかなければならない。


第二の抑止力、神秘による武装。


これを実現することが、残された私たちの使命だ。


時間はない。だが私は、暫しの暇を自分に与えたい。

鞄から手帳とペンを取り出して、空白のページを殴るように埋めていく。ペンは止まらない、止められるはずもない。


私は、彼の物語を。

いや、彼と彼女の物語を、後世に残したいのだ。

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