どうか
眼鏡犬
短編
鼻の奥に鉄の臭い。
あっ鼻血だ。
指があれば、擦って確認したのかもしれない。指がなければ、垂れるがままだ。垂れないほどの鼻血かは、わからない。ないないない。何にもない。生首独り。アスファルトの冷たさを感じている。
あっ生首になった。
その意識は突然。放り投げられた青空に落下。頭、大丈夫だろうか。傷まみれの血まみれを想像して、吐きそう。胃もないのに。ゴン、と落ちて。ゴロゴロ転がって。上の土手から下の遊歩道。ベシャリ、止まって。
あっ、あっ、と痛みに発声しては、泣き喚いた。
涙に濡れて、血に濡れて。土まみれの傷だらけ。当たるアスファルト模様になってる頬。髪はボサボサの生首、なんて。どう生きていけばいいんだ。
あっまだ生きていたいんだ。
泣きすぎておかしくなったんだ。笑いたくなって笑った。自分てこういうヤツだっけ、と同時に思い出せないことに気づく。名前、恋人、家族、友人、学校、職場。近くて、遠い。
それでも、カラアゲ食べたくってコーラ飲みたくってアッツアツのラーメンの味噌󠄀食べたくって。生きていたすぎて、笑った。生首なのに。動けない生首なのに。
今は曇り。もし雨が降ったらどうなるのだろう。もし川に落ちたら、どうなるのだろう。
チャッチャッ。何か、獣の足音。転がった前正面から、犬が近づいてくる。大きめの柴犬。長いリードの向こうでには飼い主がいる。
人がいる。
フンフンフン。気づいた犬に嗅がれる。掴みは上々のようだ。口笛を鳴らす。ここにいてほしい。飼い主が来るまで、気づいて、興味を持ってもらうまで。必死だった。このタイミングを逃した未来が恐い。
無害です。生きたいだけです。
どうか、どうか。
生首、拾ってみませんか。
どうか 眼鏡犬 @wan2mgn
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