The Third/レッドセーバー 第3話

 『当たり前の日常』


「さて、お昼どうする?」

 隣の村上に、樫尾は声をかけた。左腕のクロノグラフ、針は十二時前を示していた。

 そして、お昼休みを知らせるチャイムが鳴った。

「え、もうこんな時間!」

 村上が自分のスマートウォッチを見て、言った。

「樫尾さん、お昼はいつも、どうされてます?」

「もっぱら、近くの行きつけで済ますけど」

「お供します」

 村上はトートバッグにしのばせていたミニバッグを取り出した。

「じゃ、行こっか」

 オフィスからすぐのとこにある町中華、平和軒。昼時はいつも混んでる。

 セルフサービスなはずの水を女将さんはいつも、樫尾には出してくれる。今日は村上の分も出してくれた。

「毎度。

どうしたの? こんなかわいい子連れちゃって」

「今日から入った同僚。よろしくね」

 樫尾が紹介すると、村上がどもって、頭を下げた。

「何にする?」

「Aセットお願いします!」

 樫尾より先に、メニューも見ずに村上が頼んだ。

「あ、おれも」

「仲良しだね」

 そう言って、女将さんは大将にオーダーを通した。大将がチラッと樫尾たちを見て、うなづいた。

「Aセットって、どんな内容か知ってるの?」

 樫尾はコップの水を一口飲んで、村上に聞いた。

「ラーメンとチャーハンのセットですよね」

「何で知ってるの? この店、来たことあるの?」 

「初めて来ましたよ。

たぶん、そ〜かな〜って···

どんなラーメンかな、楽しみ〜♪」

 村上は箸入れから割り箸を抜いて、きれいにそれを割って、口に入れる部分をすり合わせてなめらかにしていた。その一部始終を樫尾が見ていたら、視線を感じた村上が向き直った。

「ん? はい♪」

 そんなつもりじゃなかったのに、村上はなめらか作業を終えた割り箸を樫尾に手渡してくれた。

「あ、ありがとう」

 村上はもう一本抜割り箸を抜いて、同じ工程を繰り返し始めた。

 そうこうしてる内にAセットがきた。まずは村上の分。お盆に載った料理を見て、彼女は歓声を上げた。

「わ〜、メッチャおいしそう! 

しかも、スゴく豪華!」

 村上の丼には、ラーメンにチャーシューとワンタンがトッピングされていた。 

 樫尾のAセットが運ばれてきた。

 丼を見ると、中央に長ネギの刻んだの、それを囲むように海苔が一枚、メンマ、チャーシューが一枚。それだけだった。

 女将さんが村上に言った。

「お嬢ちゃん、かわいいから、大将からサービスだって」

 大将がチャーハンの鍋を振りながら、振り返った。

 村上が大将にウインク、すると大将もウインクで返した。

「えこひいきだ···」

「も〜、すねないの。

はい、一枚あげる」

 樫尾が不満をもらすと、村上が自分の丼の中の無数のチャーシューから一枚分けてくれた。

「ワンタンもほしい···」

「も〜、ワガママだなぁ。

はい、一個あげる」

 この子、何でもしてくれる。

 樫尾は調子に乗った。

「チャーハンの紅生姜、食べられない」

「好き嫌いしてたら、大きくなれないぞ〜」

 村上が樫尾の分から、紅生姜を自分の皿に移した。色どりはキレイだけど、樫尾は紅生姜は食べられない。理由は赤いから。

「ママ、ありがとう」

「世話の焼ける子ね」

 とゆ〜わけで、ごっこ遊びも一区切り。

 二人で手を合わせた。

「いただきます」

 村上がレンゲでスープを一口。そして、麺をすする。

「わ! スープ、メッチャおいしい! 

麺も細いのにコシがあって、プツンプツンって歯応えがいい!」

「その麺、大将の手打ち麺だよ」

「わたし、手打ちのラーメン食べたの初めて。スゴい、おいしい!」

 村上の好反応に大将も満更じゃない様子。こりゃ、当分、サービスは続くな。

 昼食を終えた帰り道。二人でオフィスまで歩く。

「樫尾さん、本当にご馳走様でした。

でも、明日からは割り勘にしようね」

「別にいいよ、昼メシくらい」

「ダメですよ。これから毎日、一緒にランチするんだから、自分の分はちゃんと出します。

これからも、いろいろおいしいお店、連れてってね♡」

 村上がそう言って、笑った。

 タメ口混じりの会話が心地よい。

 明日はどこ連れてってあげようかな。

 樫尾は自然にそんなことを思った。

 この子といると、当たり前の日常が楽しく感じる。

 鼻歌混じりの村上。

 曲はトゥーチェロズの影武者だった。


 第4話へ続く

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