第3話 フレーム攻撃と0分42秒

岩壁を抜けたカキの目の前は、本来、ダンジョンの受付や休憩所があるはずのエリアを飛び越え、いきなり最初の魔物**『グレイ・スライム』**がたむろする通路だった。


スライムがゆっくりとカキに気づき、移動を開始する。

正規攻略なら、ここで慎重に間合いを取り、

粘液を避けながらナイフで10回以上斬りつける必要がある。


しかし、カキは待たない。


彼は再びナイフを構え、スライムに向かって突進した。

そして、スライムに接触する直前の、一瞬。


カキは、ナイフを「構える」入力と「しまう」入力を、極限のスピードで繰り返す。


カシュ……カシュ……カシュ……


耳には聞こえない、電子音のような短い動作が、

僅か0.1秒の中に十数回もねじ込まれた。


<RTA配信コメント(脳内表示)>


-Glitch_Master-: フレーム攻撃、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!


-RTA_Fanatic-: 1フレームで複数回攻撃判定出すやつ! この世界、物理演算がバグってんだよ!


-座標ずらし-: スライム、溶解したw


カキがスライムを通り過ぎた後、遅れて「グシャッ」という潰れる音が響き、

スライムは液体となって床に広がる。


この後も、カキは一度も立ち止まることなく、壁を抜け、トラップを座標ズレで回避し、ボス部屋に直行する。


そして、0分42秒後。


初期装備のナイフだけを持ったカキが、何事もなかったかのように、

ダンジョンの正規の出口から姿を現した。


MISSION COMPLETE


カキの脳内のコメント欄は、最大瞬間風速を迎えていた。

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