第三章:被害者の姉 砂 雲雀(いさご ひばり)


「俺の人生はこうして終わった気がしたんです」

あたしはそこで怒りを抑えるのをやめた。

「あたしはあんたを許せない」

「多少反省しているようだからあたしは黙っていたけれどね」

「あたしはほんとにあんたが許せない」

「どんなにベタだってね、あたしと父さんの前ではあんたは弟の分まで生きるとか前向きなことって言わなきゃいけないのよ」

「あたしが許せないのはその後ろ向きな姿勢だ、それ以外は申し分ないけどね」

「こら、ひばり! すみません、ひばりは感情的になりやすくてね。こう見えて案外気に入っているようですよ。貴方のことを」

 そういわれて弟をひいた男の顔が好みの可愛いイケメン俳優に似ている。そんなことで甘くなっているあたし自身が照れくさく感じた。そうやってあたしは話を聞かないことにする。いつもやっていることだ。

 周りが天才だなんだとあたしを持ち上げるが、あたしはこんなことを言えるほど偉いのだろうか? いいや、偉くない。そして、偉さでも測れない。もしそんなものであたしが判断をする人間なら、あの時母を選んでいた。もっと大事なものを父の清、弟の鳩太に感じたからこそ、あたしは二人を選んだのだ。本当は選ぶことさえなければよかったのに......。

 父は頭の回転が速い方ではないが、知識を覚え、身につける力に努力を尊敬している。たまにプリンを食べられたことを半年後になっても覚えていてケーキを一人だけ多く食べるとかをするのは大人としていかがなものかと思うが嫌な部分もその程度だ。

 弟は純粋で真面目だ。限られた力でよくしがみついていたとやや上から目線で思っていたものだ。しかし、好きなものへの集中力は誰よりも高かった。あんなことさえなければ、今頃、引きこもりで一人で行動ばかりせず今は大学で人に囲まれ成功していたかもしれないのに......。

 中学まで常にトップであった弟の成績は高校の時に徐々に落ちていった。高3の春、はじまって少しの頃、弟は母に叩かれた。聞けば、全ての教科で赤点を取った。そんな話らしかった(母がすべての答案用紙を燃やしたため、今となっては確認しづらくしようとも思わなかった)。父は母を冷たくなだめた。父は不和を嫌う、父は母を𠮟りつけることもしないし、あたしも父に叱られたことはない。しかし、母は父の考えをわかっていなかった。それどころか、母の目にはもはや弟が映っていないように見えた。

 その後、父は母のことを執拗に聞くあたしに絞り出すように教えてくれた。姉であるあたしのように成長しない弟が憎く、自分が責められているようだ。ただ、まっとうであってほしいだけなのに何故悪者になるのか? そういう、彼女の本心があたしたちを貫いていた。彼女が理解できないことを話していれば、受け入れる勇気があれば、何か変わったかもしれない。もうどうしようもないことにあたしは思考を割いていた。

「おーい、ひばり、聞いてないなぁ」

「なによ」

「ああ、やっぱり聞いてなかったな、ひばりが怒らないわけがない」

「さっさと言いなさいよ」

「彼を養子にすることにした」

「はぁ?」

あたしの人生はこうして変わってしまった。

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