愛と視野

@hitokado429

第一章:ひかれた男 砂 鳩太 (いさご きゅうた)

 僕は今日も写真を撮る。きよしとひばりは喜んでくれるだろうか? そう、脳裏に浮かんだ不安は、二人への信頼が冷たい雪を溶かすように消えていった。

「大丈夫、父さんと姉さんはいつだって。僕の写真を喜んでみてくれたんだから......」

「あ、珍しい鳥だ!」

 僕は山道の車も通る大きな道の端っこを歩きながら、ただ、写真を撮っていた。思わず、足が前に出て慌てて元の位置に戻る。ここはあまり歩道が大きくなく、カーブが多い道だから気を付けるようにときよしは言っていた。きよしはいつも僕のために僕のことを考えて話してくれた。そのことにとても感謝している。

 ましてや、高校をギリギリ卒業し、その後ずっとフラフラと頼まれた写真を撮る日々を送っていても怒られたことはない。本来であれば考えられないことだろう。僕は恵まれているのだと思う。

 ひばりも早く帰ってくるようにといつも言ってくれる。ひばりは感情的に僕のことを注意するが、その注意は全て僕を想ってのことだと感じ取れるものだ。

 僕はひばりを尊敬している。それは小さいころから何度も車にひかれそうになった僕を引き留めてくれたからだろうか。それとも、何かと気を使ってくれていじめや悩み事から守ってくれたからだろうか。あるいはその両方、気づいていないものからかもしれない。

 しかし、きよしとひばりの家族を愛していることは僕にとって明らかな事実だ。

 日はだんだんと短くなり、すでに夕日が見え始めていた。

「い、急いで帰らないと」

 その焦りが歩みをせかせかとしたものに変えていった。僕が息を切らせて休憩していたころには、あたりはすっかり朱色に染まっていた。

「あっ」

 それは今回の目的、きよしが探していた花だった。なんでも大変珍しいもので、めったに見られるものではない。ましてや、見たことを証明するためには様々な角度から明瞭にその姿を切り取る必要がある。

 パシャリ パシャリ

「あと少し、もう少し近づけば......」

 足を前に出す。

 パシャリ パシャリ

「もっと足を前に出せば、特徴をかっちりととらえ、父さんを喜ばせることができる。素敵な構図で姉さんにきれいな写真を見せられる」

 足を前に出した後、ふと、気配を感じた。横を向くわずかな時間がやけにゆっくりと感じ、確実に目前にそれは迫っていた。白い流線形は朱色の光を反射し、きらめくその加速に適した姿の怪物はやっと僕に到達した。

 ゴッ。

 僕の人生はこうして終わった。

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