閑話 第62.5話-2 お菓子を買いに行きました
「サリー、走らないの!」
「え〜、だってぇ、ルシア様とデートだよぉ」
今日はメイド三人娘と街へ買い物だけど、デートではないよ。
「フフ、最近王都は物騒なので、しっかりと手を握っていて下さいませ」
ニーナさん、だからって指を絡ませる握り方は必要がないのでは?
しかし、人通りの多い賑やかな王都の街中。確かに街中の兵士を見かける頻度は多い気がする。なにかあったのかな?
僕がニーナさんに問おうと思っていたら――
「あ、このお店ですぅ」
サリーさんがお店の扉を開けて中に入っていった。続いて僕たちも中に入る。
お店の中は甘い香りが漂っていて、ほぼ女性客しかいない。
ショーケースにクッキーやビスケットが並び、いくつかの瓶にはカラフルなキャンディが入っている。
そう、このお店は王都でも人気のお菓子屋さんなのだが……。
「ケーキとかは置かれていないんですね」
「ケーキ類は傷みやすいから注文販売なんですよ」
アリサさんが教えてくれた。
「魔法で冷やせば大丈夫なんじゃない?」
「……アハハ、それはルシア様の発想ですよ。冷やす魔法や氷の魔法はありませんから」
「え、ないの!?」
衝撃の事実。水属性魔法があるから氷結系魔法はあるものだと思っていた。僕の魔法なら『氷』と唱えれば氷ができてしまうけど、世の中はそうはいかないみたいだ。
「サリーさん、そんなにたくさんは買えませんよ」
ニーナさんがトレイにクッキーやビスケットを乗せているサリーさんを注意する。
「で、でもぉ〜」
「たくさん買っても駄目になってしまいますよ。最近は湿気も増えてきてますからね」
「……は〜い」
そんなやり取りを見て僕はまたアリサさんに質問する。
「アリサさん、乾燥や温める魔法、それと真空の魔法ってないの」
「乾燥や温める魔法は聞いたことがありませんね? あと、シンクウとはなんですか?」
「……」
なるほど。僕は顎に手を当てて考え始めた。
冷ます、氷、乾燥、温める――どれも魔法はなく、真空に至っては概念もないか。0がなければ、気圧なんて考えようもないよな。
でもこれはいいヒントになった。ここらへんの魔法や魔法陣カードができれば、ケーキはショーケースに並べられるし、クッキーは日持ちするし、うん、ミーナさんが喜びそうだ。
僕たちはクッキーなどのを買って表通りに出た。
「ひ、ひったくりよ〜、誰か、その人、捕まえてぇぇぇ」
通りの向こうで女性の声が響く。なにかと見て見れば、女性物の鞄を小脇に抱える髭面の男がこちらに走ってきた。
「ルシア様は私の後ろに」
すぐさま三人のメイド娘は僕をガードする体勢になった。
髭面は一直線にこちらに走ってくる。
まあ、こんなんでいいか。
「『防壁』」
僕はガラスのように透明な魔法の防壁を、髭面の前に作る。
髭面は見えない防壁に激突し、盛大に転倒した。
「確保ッ!」
アリサさんが言うと、サリーさんがシュッと動いて、倒れた髭面をうつ伏せにして、肘関節を決めて押さえ込む。
ミーナさんがどこから出したのかは分からないが、ロープを使って髭面を縛り上げた。
見事な三人の連携だった。アリサさんの判断力、まさかのサリーさんの身のこなし、ミーナさんの卓越した捕縄術。伊達にマライアさんの下で働いてはいない。
「大丈夫ですか」
近くに兵士二人が駆けつけてきた。
「はい。男は彼女たちが取り押さえました」
兵士二人は三人の美少女メイドを見て、少し頬を赤らめている。そうじゃないでしょ。
「ご協力、感謝します」
兵士の一人がミーナさんからお縄になった髭面を引き取る。
「……こいつは……違うな」
兵士が呟いた言葉を僕は聞いた。
兵士が街中に多い理由。やはり、王都でなにかが起きているみたいだ。
まあ、民間人の僕には関係ないかな。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」
またしても街中に響く女性の叫び声。
しかも……お隣からです。
「ク、クッキーが、こな、こな、粉々にぃぃぃ!?」
ミーナさんの泣き叫ぶ声。髭面を捕まえる時にお菓子の入った袋をほうり投げてしまったみたいだ。
ボタボタと涙を流すミーナさん。
うん……お疲れ様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます