ダイヤモンド編 第64話 王家との謁見……まさかの初キス
「王妃殿下、本日も大変麗しゅうございます」
マライアさんがエリザベート様に挨拶をする。
マライアさんには余裕がうかがえるが、僕はさっきから緊張が爆発寸前だった。
ここは王都と同じ名を冠する建物。青白い尖塔がいくつも立ち、白い壁は陽射しを受けてきらびやかに輝いている。
そう、僕がいるのはリステンシュタイン城。花々が香る庭園から入り、きらびやかなホールを抜けて、高価そうな絵画や壺などで飾られた応接間に来ていた。
「お久しぶりね、マライアちゃん」
「で、殿下、この場でそのような呼び名は……」
「あら、そうね。ではロンズデール嬢、とお呼びしましょう」
「はい、殿下。そうお呼びください」
二人の挨拶が済むと、エリザベート様は僕に向き直った。
「ルシアも、よく来てくれましたわね」
「王妃殿下、ご無沙汰しております。本日もお会いできて光栄です」
その時、僕のズボンを引っ張る小さな女の子がいた。ここで、誰、などと聞いたら不敬罪になりかねない。何しろ王城の中なのだから。
「初めまして、黒髪の魔術師様。私はベアトリス・ディス・グランシルなのです」
ドレスの裾を両手で上げて、片足を引いて軽く膝を曲げて挨拶をしてくれた。
「は、初めまして、王女殿下。ルシアにございます。本日は大変麗しゅうございます」
「私は黒髪の魔術師様にとても会いたかったのです」
「わたしにですか?」
「はい。黒髪の魔術師様は私の命の恩人なのです」
どういうこと?
僕は少し困り顔でエリザベート様を見た。
「ルシアは五年前に私を魔獣から助けてくれましたね。その時にお腹の中にいたのがベアトリスです」
何と、そんなことが!
「抱っこしてください、なのです」
両手を上げて猛烈に抱っこアピールされている。
僕はまたエリザベート様の方を見た。エリザベート様がニコリと微笑んだのはオッケーってことなんだろう。
「で、では、失礼いたします殿下」
僕がベアトリス王女様の両脇に手を入れると――
「違うのです。お姫様抱っこがいいのです」
僕は言われるがままにお姫様抱っこをしたら、王女様は僕の首に手を回し、頬にチュッとキスをした。
「ご褒美なのです」
え、えぇぇぇっ!?
幼いとはいえ、女の子からのキスは生まれて十年、生まれる前二十八年の中で初めてのキスだった。
「で、殿下、お戯れを……」
僕が慌てているその隣で、殺気を帯びた目で僕を見つめている存在がいたことを、この時の僕は知らなかった。
――そして、何故かマライアさんの機嫌がしばらく悪かった。
◇
「入るぞ」
応接間の扉がメイド二人の手により開けられ、威厳に満ちた男性が入ってきた。
歳の頃は三十代、プラチナブルーの整った髪、瞳は鋭く、自信に満ちた口元、そして溢れ出る威圧感はまさに王者の風貌。
僕はその威圧感に押され、一度立ち上がり、片膝をつく。
隣のマライアさんも臣下の礼を取っていた。
「陛下、本日はお時間をいただきありがとうございます」
マライアさんが顔を伏せたまま国王陛下に挨拶をする。
「そう肩肘を張らんでよい」
そう言われ、顔を上げる。
「輝く宝石に興味が湧いた。それに――」
国王陛下が僕を見た。
「黒髪の魔術師には一目会いたかったからな」
え、何? 今、僕を見て口角が上がらなかった?
「わ、私でございますか」
「ああ、ルシアのことは辺境伯から聞き及んでいる」
お父さん、何を吹き込んだの?
「百連撃魔法陣にコピー箱、そして写真カードか」
ドキッ
「世も久々に心が躍ったぞ。それで、今日は何をやらかした報告が聞けるのだ?」
な、何ですか、その期待に満ちた目は。
「わ、私は何もやらかしておりませんよ?」
「ほほう。十歳の天才教師が新たな数字で学院が騒がしいと天王から聞いている」
ニヤニヤと笑みを浮かべる国王陛下。
「ルシア、お前の数字が世界の在り方を変える事になるかもしれぬこと、気が付いていないのか? これをやらかしたと言わずして何と言おう?」
え、世界を変える?
僕の……数字が?
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