王都訪問編 第38話 王女様と一緒にランチ
魔法試験が終わると解散になった。試験の結果は一時間後に正門近くの広場に張り出されると言っていた。
「オホホ、貴方、ルシアと言ったわね。さあ、行きますわよ」
レスティーナ様が僕の手を取ると歩き出した。
「ち、ちょっと、あの、で、殿下?」
「急がないと食堂が混んでしまいますわ」
「食堂?」
「私、何度か学院には来ていますので、知っていますのよ。良い席は早く行かないとなくなってしまいますのよ」
今は昼時でお腹も空いてきた。でも僕には――。
「ぼ、僕、お金を持ってません」
囚人の僕に持ち合わせなどない。
「オホホ、私も持っていませんわ」
じゃ、駄目じゃん。
「ここの食堂は無料ですので要らなぬ心配ですわ」
「む、無料ですか!?」
「さあ、早く行きますわよ」
僕は無料と聞いて足取りが急に軽くなった。無料とは流石王立学院である。
◇
美味しそうな匂いと学生たちの明るい会話で賑わう食堂に着いた。
広々としたスペースに四人掛けや六人掛けのテーブルが並んでいて、八割方の席は埋まっていた。
僕達が食堂に入ると入口付近にいたメイド一人が近づいてきた。
若いメイドさんが軽く頭を下げる。
「王女殿下、お席をご用意しております」
「オホホ、良い仕事をしましたわね」
メイドさんが気を利かせて席を確保していてくれたようだ。
「では、お食事をご用意いたします」
料理は壁側にいくつか置かれているカートの上の物を自分で取りにいくビュッフェスタイルになっていて、学生たちが楽しそうに料理を皿に乗せる姿が見えた。
「いえ、自分で取りに行きますわ」
メイドの手を煩わせないとは、なかなかに好感が持てる。
「いえ、それではデザートばかりになってしまいます」
……ただ甘い物が食べたいだけかよ。
メイドさんのリアクションにクスッと僕が笑うと――
「だ、大丈夫ですわ。場はわきまえておりますわ、オ、オホホ」
レスティーナ様は少し頬を赤くして僕を見た。甘党が知られて少し恥ずかしいみたいだ。
僕達三人は料理を取り終えると四人掛けのテーブルに着席した。レスティーナ様の両隣がメイドさんで王女をガードするように座っている。
メイドさん、座るんだ。カテジナさんがいつも立っていたので、てっきり王女様の後ろに立っているのだと思っていた。まあ、食堂の狭い通路で立っていたら邪魔だけどね。
「貴方、お肉料理ばかりですね」
「レスティーナ様もデザートが多いですよ」
僕達はお互いそう言うと二人してクスクスと笑いあった。メイドさんがため息を吐いたのはスルーだ。
だって僕には十年分のお肉ビハインドがあるんだよ。なんならお肉料理を異空間収納に入れちゃいたいぐらいだよ。
◇
「ルシア、貴方の魔法にとても興味がありますわ。どのようにして多重魔法陣を構築しているのですか?」
食事中の会話。僕は骨付き肉を頬張りながら――。
「きぎょおーひみつでふ」
今回の僕は自重ルートだ。(さっきのやらかしはノーカンって事で)しかもこんなオープンな所で「大精霊エストリアの加護です」などとは答えられない。
レスティーナ様はフォークを皿の上に静かに置くと、少し目を細め懐疑的な視線で僕を見た。
「企業秘密? 第一王女たる私にもお話ができないのですか?」
第一王女。そう言えばエリザベート様が王妃は三人いると言っていたけど。僕は口の中のお肉をゴクリと飲み込み伺ってみた。
「レスティーナ様はその、第一王女だったのですね」
言うと背中に走る寒気を感じ、メイドさんの凍てつくような冷めた視線が突き刺った。
曰く、てめえ、そんなことも知らねえのか、殺すぞ! そんな感じの視線だ。綺麗な人に睨まれると怖い。
「オホホ、私をご存じないとは、ルシアは面白い事を仰いますね」
王女様のご機嫌は損ねていないようで良かった。
「す、すみません。変な環境で育ったもので、世間に疎いんです」
「そういうこともあるのですわね」
レスティーナ様はゆっくりとした仕草で席から立つと、スカートの端をつまみ優雅な姿勢でカーテシーをした。
ドキッと心臓が跳ね上がり、喧騒に満ちた食堂の音が一瞬僕の耳から消えた。
き、綺麗だ。
カテジナさんのカーテシーも綺麗だなって思ったけど、レスティーナ様のそれは見惚れてしまうほど美しい仕草だった。
「改めてご挨拶いたしますわ。私はグランシル王国第一王妃の長女にして、王国第一王女のレスティーナ・ラ・グランシルでございますわ。以後お見知り置きお願いしますわ。オホホ」
僕も慌てて立ち上がりお辞儀をする。
「ル、ルシアです。今は辺境伯領のマライア様の元でお世話になっております」
「あら、マライアお姉様の……。何て、羨ましい」
ん? 今、羨ましいって言ったよね。
ふふん、そうだろう。マライアさんの事をよく知っているみたいで、少し嬉しくなる。
互いの挨拶も終わり、レスティーナ様はふと、探るような視線をこちらに向けた。
「それでは、もう一度お伺いしますわ。ルシアの企業秘密の魔法、私に教えてはいただけませんかしら?」
その声音は冗談めいたものではなく、純粋な好奇心に満ちていた。
っていうか、瞳がめちゃめちゃ輝いちゃってます!
――さ、さて、なんて話そうか……。
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