王都訪問編 第33話 決意―彼女を守る力を欲した夜
街中での乱闘騒ぎの後、エリザベート様が乗る馬車を見送り、僕とマライアさんはホテルへと移動した。
貴族御用達の高級ホテルの一室、白を基調とした清潔感あるシンプルな部屋だったが、柱や壁に掘られた唐草模様の彫刻が高級感を出していた。
部屋に入りベットの縁に僕達は腰を下ろした。隣に座るマライアさんは未だに沈んだ顔をしている。
暫く沈黙の時間が流れたが、マライアさんが静かに口を開いた。
「ルシア、私の話を聞いてくれるか……」
膝の上に置かれた手が小刻みに震えている。僕はその手を被せる様に自分の手を重ねて言った。
「はい。僕はマライアさんのことは、良い事も、良くないことも、全部知りたいです」
オレンジ色の魔導灯が僕らを優しく照らす灯りの下で、マライアさんは二年前にあった出来事を僕に話してくれた。
◇
「あは、マライアさん寝ちゃったよ」
マライアさんから聞かされた話はまだ若い十八歳の女の子には酷な話だった。兄に騙された婚姻。歳の離れすぎた年長者との初夜。そして新妻を迎えた夜に何人もの男女の愛人を連れて来る性癖の悪さに嘔吐し、更に……。
僕は唇を噛み締めながら話すマライアさんを見て、心をナイフで切り付けられる様な強い痛みを感じた。
マライアさんが最後に――
「ついブチ切れて、あの伯爵を半殺しにしてしまったがな」
と苦笑いしながら言ったので、僕はあははと笑い、
「それは当然の鉄槌ですよ」
と返したら小さな声で
「ありがとう、ルシア」
と呟き僕の膝を枕に横になった。
◇
身体強化の魔法を使いマライアさんを抱き上げてベットに寝かす。
僕も隣に並ぶベットに入り天井を見つめて考えた。
「力が欲しい……。暴力なんかじゃない、マライアさんを守れる力が」
僕は大精霊エストリアの力に浮かれていた自分を恥じた。暴力には暴力、それは仕方がない事かもしれない。
でもそれだけじゃ全然足りない。
今日だってアイツが貴族の身分を傘にした押し問答だったら、囚人の身分の僕は何も出来なかっただろう。
「権威、人脈、知識、経験……、足りない物が多すぎる」
クソ
そう呟くと天井の灯りが歪み始めた。
この十年、何してたんだ僕は。力だけを求む無為に過ごした日々に後悔の念が走る。
「力……」
歪む灯りに手を伸ばす。
「暴力だけじゃない力を手に入れるんだ。あと五年……。成人になる迄まだ時間はある」
この世界の婚姻は十五歳からだ。それまでにマライアさんが幸せな結婚をしたなら、それは仕方がない。
でも……。
「マライアさんは誰にも渡さない」
僕は伸ばした手を大きく開き、歪む灯りをギュと握りつぶした。
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