王都訪問編 第31話 マライアさんの涙と最低伯爵令息
レストランを出ると辺りは暗くすっかり夜になっていた。
繁華街からは離れた立地にお店があるため人通りも少なく、街灯が少ないためか、通りの先は闇に包まれ先が見えない。
「この辺って、夜になると少し寂しいですね」
そうだなとマライアさんが頷く。
「お姉様、お城まで送ります」
「大丈夫よ、心配しないで。護衛を乗せている馬車があるから」
暗い通りの向こうに馬車が停車しているのが見えた。僕たちが馬車の方へと歩き始めた時、暗がりの通りからぬっと男たちが現れる。
先頭を歩く男性。背は中背でやたら腹が出ていて横に広がった体格。顔にも垂れ下がるほどの贅肉がついていて、悪い言い回しだけど醜い顔だ。
派手で豪華な身なり、左手にはワインのボトル、右手は化粧が濃いめの女性の肩に手を回している。典型的な酔っぱらいのお貴族様って感じだ。
その男の後ろには体が大きく筋肉質な男が五人、お貴族様の護衛兼飲み仲間ってところだろう。
あれ、絶対に目を合わせちゃいけないやつだ。
変に絡まれない様に視線をそらす。僕はこの時はまだ気が付いていなかった。隣のマライアさんが怯えていた事に。
「オイ、ちょっと待てッ!」
大きな声で僕たちを呼び止めた酔っぱらい。僕とマライアさんはエリザベート様を守るべき行動を取る。
「何ですか」
僕は強気な声で男に話しかけた。
「んだぁッ? ガキはすっこんでろッ! オレ様はそこの女に用があんだよッ!」
エリザベート様狙いか? お忍び中の王妃様に怪我などあってはならない。
「僕たちはあなたにご用はありません。失礼させて頂きます」
出来るだけ落ち着いた声で応対する。
「テメぇッ、オレ様が誰だか知って、そんな口をきいてんのかっ! ぶっ殺すぞ!」
そう言って男はワインボトルをあおる。口元からだらしなく赤ワインが流れ落ちる。
「オレ様はなぁッ、コーズナー伯爵家ご当主様だ! テメみてぇなクソガキが生意気な口をきいてんじゃねえよッ!」
酔っぱらいのべらんめえ口調。しかし酒で赤くなっていた顔が更に赤くなっている。
「確かに僕はクソガキかもしれませんが、後ろにいる女性こそ、あなた如きが口を開くのも烏滸がましいと思います」
そうは言ったが、僕は後ろのマライアさんとエリザベート様が気になり振り向いた。
エリザベート様は男を鬼の形相で睨んでいたが、マライアさんは顔を青くしている。あのオークの群れに臆する事もしない女傑のマライアさんが怯えている。
そして唇を震わせているマライアさんを見て男がほくそ笑んだ。
「マライア、久しぶりだなァッ! 辺境送りになったって聞いたが、悔い改めんならオレ様の所でまた囲ってやってもいいんだぜ」
マライアさんを囲う? なにをふざけた事を言ってんだコイツは?
胸糞悪い男の言動に僕の心が荒れ始めた。
「オレ様は出戻りも気にしない寛容な男だ。とはいえ、あん時の代償はそのよく育った体で返してもらうがな」
男の隣にいた化粧の濃い女が言う。
「伯爵様ぁ〜、その女、だぁれぇ〜」
「こいつか。こいつは俺の元妻だ」
元妻……? そんな話、初めて聞いたぞ……、なにを言ってるんだコイツは?
その時、ドサっと後ろで音がした。マライアさんが石畳に膝を付いている。
涙。
マライアさんは蒼白な顔をして、頬を涙で濡らしていた。
(ルシアに私の過去を知られた……。まさか、こんな形で……知られたくなかった)
「……やだ、ルシアに、嫌われたくない……」
か細く呟く悲しい声。マライアさんが泣いている……。僕の心はもう爆発してしまいそうだ……。
強く噛み締めた唇から血の味がした。
(過去とか、関係ない。僕が嫌うはずなんかない……、クソ……このクソ野郎は……)
「コーズナー卿、それ以上の暴言は許しませんよ!」
エリザベート様が強い口調で叱責する。
「んだテメぇは? てか若作りババアはすっこんでろっての! バツイチ貴族なんてな、人生詰んでんだよ、優しいオレ様がかわ――ガハッ!」
僕は怒りでクソ野郎の顔面に拳をめり込ませていた。
「黙れゲスッ! マライアさんを泣かすヤツは誰だろうと僕が許さないっ!」
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