囚人編 第25話 カテジナさんと隣村に行ってみた

「カテジナさん、寒くないですか?」


「いえ、心も体も気持ちいいです」


「?」


 僕はカテジナさんを『身体強化』を使って抱きかかえ、鉱山村の隣村まで『飛翔』を使って向かっていた。


 あの後、領主邸に戻り、領主であるマライアさんの指示の元、後処理をどうするか打ち合わせが行われた。


 オークの大群、更にオークキングという都市災害級の魔物の襲来があったにも関わらず死人はゼロ、村の被害は無し。


 防戦をしていた冒険者が軽い怪我をした程度で済んだのはある意味奇跡だったとマライアさんは言っていた。


 そして最大の被害は街道が完全に破壊されてしまった事だ。破壊したのは僕だけど……。


 そんな訳で隣村に街道封鎖の連絡が必要となり、破壊した張本人で且つ『飛翔』魔法を使える僕が隣村に行く事を名乗りでた。


 マライアさんは少し苦い顔をしたが、それが迅速に事を進める手である事は間違いないので、移動担当は僕で、隣村の村長へのメッセンジャーとしてカテジナさんが行く事になった。


 僕達は少し遅めの昼食を食べた後に出発した。隣村までは馬車で半日の距離だと聞いている。『飛翔』魔法なら直線で向かえるので半日もかからずに隣村に着いた。


「ルシア様の飛翔魔法の偉大さに改めて感銘を受けました」


 馬車に比べ二時間は早く到着した事にカテジナさんは喜んでくれた。


「そ、そう? 帰りはもっと早く帰れるよ」


「それは楽しみでございます」


(ふふ、ルシア様とこうして二人でとは、いわゆるお出掛けデートではございませんか。わ、私の人生初デート)


 村の外れに降りたった僕達は村の中へと入っていく。


「鉱山村の方が栄えてませんか?」


 隣村は農業が主体の村らしく、切り開かれた土地にポツリポツリと民家がある感じだ。僕の実家がある男爵領の村によりも田舎感がある。


「鉱山村は収容所がある関係で納税が免除されています。その恩恵で住民税も極力下げているので、生活水準は田舎の村よりは高いレベルに有ります」


「そうだったんですね」


「とはいえ鉱山村は物流が弱いのでこれ以上の発展は難しいのも事実です。少し前までは」


「少し前までは?」


「はい。今はルシア様がいらっしゃいますから今後は大いに発展するものと存じます」


「……だといいですね」


 そんな会話をしながら、小さな色とりどりの野花が咲き、心地よい春の風が春の花の香りを運んでくれる、そんな農村の道を僕達はのんびりと歩いた。


 女の子と二人で歩くなんて、少し嬉しい。


「着きました」


 村長宅は簡単な木の柵で囲まれた木造住宅で、家の大きさはそれ程大きくはない。


「ルシア様、私めが話を致しますので、ルシア様は……私めの手を握っていて下さい」


(デ、デートといえばやはり手を……)


「手を、ですか?」


「はい。お嫌……ですか?」


「え、そんな事ありませんよ。むしろ大好物です!」


 何だよ、大好物って! 前世でも女の子の手なんて握ったこともないのに。それだけに、女の子の手を握れるのはめちゃ嬉しい。


 でも、何の意味があるのだろうか? もしかしてこの村の村長がやたら怖い人なのかな?


 ふと思い出してしまった前世の上司。圧が厚くて暑苦しいヤツだった。あんなん出てきたら、今の僕なら殺れる気がする。出たら殺ッちゃうよ。


 などなど考えながらもカテジナさんの手を少し震える手でそっと握る。


 や、柔らかい。温かい。かなり感激!


 そして、二人並んで玄関前に立つと、カテジナさんが村長宅の扉にあるノッカーを叩いた。


 扉が開き、腰が少し曲がったお婆さんが顔を出した。


「おや、カテジナ様。本日はどうされました?」


 気さくな感じのお婆さんだ。


「村長はご在宅ですか?」


「いえ、畑にいますので呼んで来ます。中に入ってお待ち下さい」


 お婆さんに促され家に入る。そこは土間になっていて四人掛けのテーブルがあり、そこに僕達は座った。


 家の中は採光が少なく気持ち薄暗いけど、農家独特の匂いがして少し心が落ち着く。


 お婆さんが土間にある台所でお茶の支度をしてくれている。


「カテジナさん」


「はい。何でございますか?」


「まだ、手を握っているの?」


「はい、……ずっと握っていて下さい」


 するとカテジナさんが指を絡める握り方に変えてきた。


「カ、カテジナさん?」


「フフ、こちらの方が、……安心出来ます」


(や、やってしまいました、恋人握り)


 やはり村長はやたら厳格で怖い人なのだろうか? 今日のカテジナさんは少しいつもと違う気がする。


 お婆さんは僕達にお茶を出した後に村長を呼びに家を出ていった。ちなみにお茶請けはない。


 お婆さんも村長もなかなか戻ってこない。外を見れば少し日が落ちようとしている。


「た、大変お待たせしました」


 慌てた顔で入ってきたのは麦わら帽子を被ったお爺さんだった。


「いえ、連絡もなく急に来たのはこちらですので、謝罪は無用でございます」


「そう言って頂けると助かります」


 村長さん、全然怖くなかった。じゃあ、何で今も手を握っているの?


 カテジナさんが街道封鎖の話を村長に伝わる。


 更にあの時に仕留め損ねたオークがいた事を伝え、村周辺の警備を強化する事も伝えた。そして、その他諸々の話が終わった頃には夕暮れを迎えていた。


「カテジナ様、もう日が沈みます。狭い部屋ですが一室ご用意しますので、泊まっていって下さい」


 村長がそう言った瞬間、握っていた手がキュッと締まった。カテジナさんの顔を見ると、一瞬だけニヤリと笑みが溢れた様な気がした。


「ありがとうございます。ではルシア様、今宵は私めと同衾という事で宜しくお願いしたく存じます」


(デ、デートと言えば、お、お泊りデート。カテジナ頑張るのよ)


 はい? 同衾? 同衾ってなんだっけ?


 村長が席を立ち僕達を泊まる部屋に案内してくれた。


 狭い部屋に大人一人が寝れる小さなベットが一台。


「カ、カテジナさん、何かベッドが小さくありません?」


「小さいですね……」


(……あのベッドで)


 握っている手が少し汗ばんでいるような……。カテジナさんを見ると少し頬や耳が赤らんでいる。それを見て僕は同衾の意味を思い出した。


 ……同衾って一緒に寝るって事だ。いやいや、あんな小さなベッドで二人寝たら……カテジナさんがベッドから落ちちゃうよね。


「ふ、二人であのベッドって……せ、狭いよね」


「大丈夫でございます。ルシア様とギューして寝れば狭くはありません」


(ル、ルシア様と……)


 ギューって……。いやいや、それでもカテジナさんがベッドから落ちたら申し訳ない。


「そ、村長さん」


 僕は村長さんに話かけ、鉱山村に帰る事を告げる。村長さんは道中の危険を伝えてくれたが、まぁそこは問題ないので、何故か渋い顔のカテジナさんの手を引き、村長宅を出た。


 辺りは暗く、人気もない。


「ではカテジナさん、帰りましょう」


「……そうですね」


 先ほどに比べてカテジナさんの元気がない。疲れたのかな? ここは早く帰ってゆっくり休もう!


「『転移』」


(えっ?)


 一瞬にして領主邸で僕が寝泊まりさせて貰っている部屋に瞬間移動した。カテジナさんは瞳を大きく開けて驚いた顔をしている。


「今のは『転移』の魔法です。記憶にある場所に瞬間移動できる魔法です。カテジナさん、あんな狭い部屋で寝る事にならなくて良かったですね」


 僕がそう言うとカテジナさんの頬がぷ〜と膨らんだ。


「(ボソ)……ルシア様は奥手過ぎます」


「ん? 何か言いました?」


 あれ? なんか少し怒ってる?


「あの〜、カテジナさん? どうかしましたか?」


 カテジナさんはぷ〜と膨らんだ顔で僕を見ると――。


「知りません」


 と言ってバタンッと扉を閉めて部屋を出ていってしまった。


 はて? 僕、何かやらかした?




【作者より】

1万字の短編を連載しました。

ご興味あればよろしくお願いします。


【短編】翠のイルカ〜魔導技師の少年が目覚めさせた古代遺船。帝国から追われている王女を助け地底を駆ける - カクヨム

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