囚人編 第23話 激闘オークキング
「マライアさん、あそこにバリケードが」
『飛翔』の魔法で先んじて戦場に飛び立とうとした僕に、マライアさんが少し引き攣った顔で、一緒に行くと言い出したので、『身体強化』を使いマライアさんを両手で抱えて街道沿いに飛んで来た。
百匹近いオークの群れが砂埃が立ち上がる街道を埋め尽くしている。
その手前に道を塞ぐように横倒しの馬車や灌木などで作ったバリケードがあった。
バリケード越しに剣や弓でオークと戦う冒険者の姿が空の上から見てとれる。
「冒険者達を援護します。右手を離すので、僕にしがみついて下さい」
僕はそう言うと、左手をマライアさんの腰に回す。マライアさんも僕の首に両手を回してしがみつく。
マライアさんのふくよかな胸が肩に食い込む柔らかい感触に意識を持っていかれそうになるが、僕はそれを振り払うかのように魔法を唱えた。
「『高速石弾』✕100ッ!」
右手にある大精霊エストリアから貰った魔法陣が光ると、青い空に無数の小さな魔法陣が現れた。
「行けッ!」
各魔法陣から放たれる魔法の高速石弾が、絨毯爆撃よろしく百発の石弾がオークの群れに降り注ぐ。
オークが百匹なら、こちらも百発だ。
街道に響くのは無数の石弾が着弾した轟音とオーク達の鈍い叫び声。街道は埃りや砂塵で砂嵐のようだ。
「……ル、ルシア、今のは何だ?」
「土属性魔法の石弾ですよ?」
「石弾か、……そうか、あれがルシアの石弾か。あははは」
(百連撃魔法陣とか……あり得ないだろ)
「何ですか、その乾いた笑いは?」
視界が悪いので『突風』の魔法で砂塵を払う。
街道にいたオークの半数は倒れ、半数は生きてはいるが負傷をおっている。
「ちっ、やはりいたか、オークキング」
マライアさんが舌打ちして、群れの後方にいる巨大なオークを睨みつけていた。
「オークキング? あれが?」
普通のオークの三倍近い巨体。頭からは二本の角が生え、口からはみ出た牙により凶悪さが増して見える。
手に持つ戦斧はやたらと巨大で、一振りで牛も一刀両断できそうだ。
「都市災害級のバケモノだ。うちの戦力じゃ被害を出すだけだな……。村を諦めるしかないか……」
マライアさんはギリっと歯を噛み締め、悔しそうな顔をした。マライアさんの体から伝わる震え、そして唇の端から赤い血が流れ落ちるのを見て僕はキレた。
「……許せないな」
マライアさんの腰に回していた左手に力が入り、マライアさんをギュっと抱きしめる。
「ど、どうした、ルシア」
「マライアさんにそんな顔をさせた、あの腐れ豚野郎が許せません」
「…………」
「やっちゃっていいですか? いいですよね。 やっちゃっいますッ!」
「えっ、えっ、な、何を、ルシア?」
僕は右手を振り上げ詠唱を始める。
「天空の光、黄金の力、破壊の化身よ、我欲するは裁きの厳雷」
右手から黄金に輝く光が空に上がり、巨大な魔法陣が空一面に広がる。
「その力、龍と成りて顕現せよ、『雷龍召喚』ッ!」
黄金に輝く魔法陣から幾重ものプラズマが走り、その中央から稲妻を纏わせた巨大な黄金の龍がゆっくりと降りてくる。
「な、な、な、な……」
マライアさんは驚愕の瞳で雷龍を見ている。
「放てッ、厳雷!」
雷龍の二本の角が激しく光ると、二条の稲妻が一条になり、オークキングを貫いた。
「Gywoooooooooッ!」
叫ぶオークキング。プスプスと肉の焼ける音がする。しかし――。
「Gwaaaaaaaaaaッ!」
厳雷に耐えたきったオークキングが、巨大な戦斧を頭上で振り回し、更に雷龍目掛けて投擲してきた。
「マジかッ!?」
厳雷で仕留めたつもりでいたが、都市災害級は伊達じゃなかった。
「『厳雷』!」
稲妻を放ち、飛んで来る巨大戦斧を撃ち落とす。森の中に地響を立てて戦斧が地面に突き刺さった。
ならばどうする。雷哮なら殺れるだろうが、街道や冒険者も吹き飛んでしまう。
僕は街道のバリケードで唖然とした顔で立ち、
アレなら大丈夫かな。
「マライアさん、街道に少し穴を開けてもいいですか?」
「あ、……ああ。す、少しなら……し、仕方ないな」
歯切れは悪いがマライアさんの許可が出たので次の魔法を唱える。
「『雷槍』!」
いわゆるサンダースピアという魔法だ。これならピンポイントにオークキングを貫ける筈だ。
雷龍の右手に雷のエネルギーが集約し、雷の槍が顕現する。
あれ?
……なんか、デカくない?
現れたのは二、三十メートルはありそうな黄金に輝く巨大な槍。
僕の怒りパワーとリンクしちゃった……とか?
ま、待て、待て、待て、待て……
「待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ」
しかし、僕の叫びは虚しく空をきり、プラズマのエフェクトを纏った巨大な雷槍は雷龍の手から放たれ、オークキング目掛けてぶっ飛んでいった。
「ぜ、『絶対障壁』ッ!」
僕は目の前に街道も含めた巨大な魔法の壁を慌てて展開した。これなら冒険者達も守れる筈だ。
ドゥガゥァァァァァァァァァンッ!
大爆音と大爆風、そして空まで舞い上がる大量の土砂。
……や、やっちゃった。
しばし放心状態で舞い上がる土砂を見上げていた僕。
全ての土砂が舞い上がり、静まり返った戦場。
しかし……、次に大量の土砂が土石流の如く怒涛の様に落ちてきて、僕は絶望した。
絶対障壁に守られていない街道沿いの森を津波と化した土砂が森の木々を薙ぎ払って行く。
更に絶対障壁にぶつかる大量の土砂は滝の様に落ちていった。
街道を囲む森が、少なく見積もっても2、300メートルは土砂に飲み込まれている……。
ああああ……。
僕の思考回路が完全にダウンする瞬間だった。
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