囚人編 第22話 オーク襲来
僕がマライアさんの館に移り住んで五日がたった。
「道中、気をつけて帰ってくれ」
その日の朝、ミコラさんが館の門の前に馬車を止めて、出立の挨拶に来ていた。鉱山村での滞在期間は一週間との事で、これ以上は護衛の冒険者との契約もあり伸ばせないとの事だった。
あれから毎日、算術の講義を行ったので四則演算の基礎は概ね教える事が出来た。と言っても九九の暗記とかはまだまだ足りていないけどね。
玄関の軒先で挨拶を交わすマライアさんとミコラさん。僕はマライアさんの隣で二人の話しを聞いていた。
おや?
門の前にはミコラさんが護衛に連れている五人の冒険者がいる。壮年のパーティーのようで皆さんプロフェッショナルな雰囲気を醸し出しているのだが……。
二十代後半ぐらいの戦士風の男性と、軽戦士風の女性が僕を見て指を差しながら慌てた顔をしている。
何やら「あの黒髪は……」とか「悪魔の……」とか言っているみたいだけど、何の事だろう。
「ルシア君、また一月後に来るからね」
「はい。九九の暗記頑張って下さい。次に来た時は割合について講義しますね」
「割合か。何か素敵な響きだね。楽しみにしているよ」
門の前に出て手を振る僕。こうしてミコラさんは鉱山村から去っていったのだが……。
◇
「た、大変だッ!」
お昼ご飯ももう少しって時間にミコラさんが慌ててマライアさんの館に駆け込んできた。僕はその声をお昼ご飯を待つ食堂で耳にした。
何事かと玄関に向かう。玄関に着くころにマライアさんも執務室から駆け付けていた。
「オークの群れです! 街道を埋め尽くすオークの群れがこちらに向かってきていますッ!」
叫ぶミコラさん。マライアさんは一瞬だけ慌てた顔を見せたけど、直ぐに――。
「数はどれぐらいだ」
「わ、分かりませんが、十や二十じゃききません!」
「分かった。カテジナ、兵を集めろ。収容所の兵も呼べ!」
「はい。承りました」
カテジナさんが一礼すると館に入り、他のメイド達に指示をだしている。途端に館の中がバタバタとし始める。
「ミコラさん、護衛の冒険者達はどうしたんですか?」
ミコラさんは一人だ。馬車はなく馬が一頭いるだけだった。
「バリケードを街道に作っている。僕の馬車も道を塞ぐ為に置いてきた」
オークと戦っていたりしていないのが、流石はベテラン冒険者だと思わず感心してしまった。
「私も出る。誰か、鎧と馬を用意しろッ!」
領主自らが戦闘に出るんだ。しかもマライアさんは女性でまだ若い。
凄い人だ……。
僕は戦いに臨むマライアさんの顔を見た。美しい顔に雄々しさがあり見惚れてしまう。
「僕も出ますッ!」
「ルシアが? 戦闘経験はあるのか?」
「勿論ですッ! 魔獣ならそれなり退治した事が有ります」
「勿論ってお前……、十歳の言葉じゃないぞ」
苦笑いをしたマライアさんだが、「頼もしいよ」と承諾してくれた。
こんな時に不謹慎だけど、久々の戦闘に体が高揚しているのを感じて、ギュっと拳を固めた。
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