囚人編 第18話 【マライア視点1】
【マライア視点】
「失礼いたします」
執務室の扉がノックされカテジナが入ってきた。
「いかがされましたかマライア様」
「ルシアのことだ」
執務室の机に座り、書きかけていた手紙の手を止めペンを置いた。
「何か御座いましたか?」
「あったどころではない! ルシアは二年前の大干ばつから王国を救った救世主だ!」
カテジナは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに冷静な顔に戻った。
「マライア様、順を追ってお聞かせいただきたく存じます」
「そ、そうだな。順を追って話そう」
私は食堂でのルシアとの会話の内容をカテジナに伝えた。
「素晴らしいですわ、ルシア様ぁ!」
カテジナの頬が紅潮している。こんな顔の時のカテジナは碌なことを考えていない。
「素晴らしいのは事実だが、問題がありすぎる。取り分け一番の問題は――」
「革命派閥に御座いますね」
「ああ、そうだ。ルシアが王国の救世主であれ、処刑されたウォーカー男爵の子息であることは間違いない」
寄りにもよってウォーカー男爵の息子とは……。
「ロドンゴ侯爵あたりが、嬉々としてルシア様を取り込みにくることでしょう」
ロドンゴ侯爵は革命派閥の筆頭貴族で、帝国との黒い噂が絶えない御人だ。先般の革命派閥第三党が検挙されたのは蜥蜴の尻尾切りにすぎない。
「次に問題なのが貴――」
「エルグランデ様で御座いますね」
「あ、ああ、そうだな」
私が貴族派閥と言いかけた所、カテジナは兄上の名を挙げてきた。確かに貴族派閥よりも、直接貴族派閥と繋がりがある兄上の方が厄介だった。父上に相談できない理由がそこにあるからだ。
「そこで叔母様に手紙をしたためていた所だ」
「エリザベート様で御座いますか。それは良きご判断と存じます。僭越ながら申し上げますが、マライア様ご自身はルシア様をどうなされたいとお考えでしょうか」
「私か……」
ルシアの立場は危うい。今の囚人の身であれば奴隷として買い上げることさえ可能だ。現状で兄上やロドンゴ侯爵の耳にでも入ればルシアの身が危うすぎる。
「そうだな。先ずは囚人の身を解く。叔母様であれば可能な話だ。次に身元引受を王族派閥の高位貴族に委ねる。ルシアの才能を生かす上でも高位貴族の後ろ盾はあった方がいい。今のところ思いつくのはそんな所だ」
「ダイヤモンドについては如何お考えで御座いますか?」
「アレはまた別の問題だ。優先順位で言えばルシアの身の保証の方が重要だ。アレについては、また改めて考えたい」
「得心いたしました。マライア様はルシア様の身を一番とお考えで御座いますね」
「ああ、そうだ。王国五十万の命の恩人を大切に思うのは貴族として当然の責務だ」
奴隷落ちなどさせてたまるか。
「では、私めに良き考えが御座います!」
頬を紅潮させて言うカテジナ。……碌な考えでなければいいが。
「どんな考えだ?」
「はい! 王族派閥の高位貴族に委ねるのは良き考えと存じます」
「ああ」
(意見としては間違っていない)
「更に申し上げれば、養子縁組や名家の御令嬢との御婚約などがあれば、より王族派閥との縁が深まる事と存じます」
(婚約か。ルシアは多少抜けている感じはするが、正直で、実直、見た目も悪くない。私があの頃の歳であれば……)
「……そうだな」
(一瞬、昔の嫌なことを思い出しそうになった)
「僭越ながら、私の知る名家の御令嬢にルシア様をお任せするに値するお方がいらっしゃいます。この件、私めにお預けいただけますでしょうか」
「そ、そうか。確かに王族派閥の令嬢との婚約が決まれば、他の派閥はルシアに手を出せなくなるな。分かった、その令嬢を当たってみてくれ」
(ふぅ、一瞬とはいえ、バカなことを考えてしまったな)
「ありがとうございます」
カテジナは頬を紅潮させながら一礼した。
その令嬢って誰だ……?
まあ、カテジナが言うなら信頼はできるが……。
「ではマライア様、宜しくお願い存じ上げます」
「あ、ああ、分かった」
私が言うとカテジナは感極まった顔で満面の笑みを浮かべた。そんなに嬉しかったのか?
「マライア様! 御婚約おめでとうございますッ!!」
「何でそうなるッ!」
このアホ娘はいきなり何を言っているんだ?
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