囚人編 第16話 メイドさんに堪能された件

「ルシア様、湯浴みのお支度が整いました」


 領主邸に住み込むことになった僕は、まずは身綺麗にする所から始まった。


「ルシア様はやめてください。ルシアでいいです。僕は囚人なんですから」


 メイドお姉さんのカテジナさんに、そう言ってみたが――。


「ルシア様は算術の師となるお方です。師とは敬い、仰ぎ奉るものでございます」


「そ、そうですか……」


 仰ぎ奉るのは神様じゃないかな? その辺の突っ込みはさておき、僕はカテジナさんのあとをついていく。


 通されたのは白い石畳が敷かれた広い部屋。部屋の中央には、大人が寝そべって入れそうな脚付きのバスタブがあり、白く湯気が立ち上っている。

 

 実家の離れにいた時もお湯に浸かった事はない。前世以来のお風呂になる。


「では失礼いたします」


「えっ、ま、待ってください」


 カテジナさんが僕の服を脱がそうとしたので、慌ててストップをかける。


「じ、自分で脱げますし、一人でお風呂にも入れます」


「いえ、これも私めの務めでございます」


「そ、そうですか」


 綺麗な若いメイドさんに身を委ねる僕。まだ十歳だから色々と触られても、奮い立つことなく、湯浴みは終了した。


 浴場で散髪もしてもらい、仕立てのよい服に袖を通す。


「ありがとうございました」


 小綺麗にしてもらったので、カテジナさんにお礼を告げると、カテジナさんは少し頬を赤らめている。


「いえ、十分に堪能させて頂きました」


「えっ、……何を?」


 堪能? 何をだ?


「お館様がお待ちです」と言われ浴場をあとにした。





「ほう、見間違えたぞ。男前になったじゃないか」


 カテジナさんに連れて来られたのは食堂だった。今日は朝からの訪問で、色々とあってもう昼時だ。


 食堂は八人掛けのテーブルがあり、領主のマライアさんが一人座っているだけだった。ミコラさんの姿は見えない。


「男前って、十歳の子供に使う言葉ですか?」


「アハハ、確かにそうだな」


「ミコラさんは帰られたのですか?」


「ああ、用を済ませたらまた来るとのことだ。ルシアの算術に大分興味を持っていたからな」


 そう言ってマライアさんは、メイドのカテジナさんに軽く目配せをする。カテジナさんは一礼して食堂を退室した。


「じきに食事が運ばれてくるが、その前に一つ聞き忘れていたことがあった。ダイヤモンドのカット方法だ。ルシアは魔法を使ったと言っていたな。つまり……ルシアは魔法が使えるのか?」


 ダイヤモンドは磨いただけでは宝石とは言えない。カットあっての宝石だ。


「はい。独学の魔法なので系統立てたお話は出来ないと思います。ダイヤモンドのカットに使った魔法は『造形』という魔法になります」


「魔法を独学だとッ!?」


「はい」


 僕の魔法は大精霊エストリアから授かった手の平にある魔法陣と漢字を使った独特の魔法だ。


 この世界の魔法はいわゆる属性魔法で、生活魔法の第一位階から始まる位階があることは分かっている。


 つまり僕の魔法はこの世界の魔法体系――属性だの位階だのとは、まるで違う。


 さて、なんて説明したものか……。

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